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ID番号 04326
事件名 給与減額分支払請求反訴請求事件
いわゆる事件名 群馬県教組事件
争点
事案概要  教職員の行った一斉休暇闘争につき、無断欠勤としてその分の賃金をカットされた者が右減額措置を違法としてカット分の賃金を請求したのに対し、被告側が賃金過払による不当利得返還請求権を自働債権とし賃金債権を受働債権とする相殺の反訴を提起した事例。
参照法条 労働基準法24条1項
民法560条
民事訴訟法(平成8年改正前)(旧)618条
体系項目 賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 過払賃金の調整
裁判年月日 1967年3月1日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和36年 (ネ) 814 
裁判結果 原判決取消,本訴反訴共に認容
出典 高裁民集20巻2号113頁/時報472号30頁/タイムズ204号205頁/教職員人事判例5号303頁
審級関係 上告審/00977/最高二小/昭45.10.30/昭和42年(行ツ)61号
評釈論文 阿久沢亀夫・法学研究〔慶応大学〕40巻7号106頁/吾妻光俊・判例評論101号12頁/山口浩一郎・ジュリスト371号88頁/天野潤・ひろば20巻5号30頁
判決理由 〔賃金-賃金の支払い原則-過払賃金の調整〕
 本件におけるように給与過払による不当利得返還請求権を自働債権とする相殺も、例外なく一切許されないと解すべきか否かについては、なお検討を要するものといわなければならない。何故ならこのような相殺は、毎月毎に発生する給与債権の調整ないし清算としての意義を有する点で、給与と全く関係のない他の債権によつてなされる相殺の場合とはいささかその意義を異にするし、また本件におけるように毎月一定期日を定めてその月の勤務に対する給与が支払われる場合においては、右期日が月の末日でない限り常に給与の一部は前払としての性格を持つこととなるのであるが、支払期日後に減額事由が発生した場合には、当然その月の給与から減額することは不可能となる訳であるから、このような場合にも一切相殺を許さないとすることは、減額事由の発生時期の前後という偶然の事情によつて、労働者が過払給与の任意の返還に応じない場合に、使用者に対し著しい煩わしさを避け難いこととすることになり、不合理でもあるからである。そうして当裁判所は以上の観点から、給与過払による不当利得返還請求権を自働債権とする相殺の場合においては、過払給与を当該支払期日における給与から減額することが社会通念上不可能であり、かつ右給与支払後最初に到来した減額をなし得べき機会に減額がなされた場合に限つて、--本件におけるように毎月一回給与が支払われる場合には、せいぜい給与過払のあつた月の翌月に限つて、--例外的にその月の給与からの減額すなわち相殺が許されるものと解する。この場合においても、民法第五一〇条、民事訴訟法第六一八条により、原則として総額の四分の一を超える部分については相殺を以て対抗することができないという制限に服することはもちろんである。このように解しても労働者の人身拘束の防止ないし労働者の経済的保護という労働基準法第二四条第一項の趣旨にもとる虞はないと考えられる。