全 情 報

ID番号 04333
事件名 解雇無効確認請求控訴事件
いわゆる事件名 日本専売公社事件
争点
事案概要  レッドパージの被免職者がその効力を争った事例。
参照法条 労働基準法3条
日本国憲法14条
日本国憲法19条
民法1条1項
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 信条と均等待遇(レッドパージなど)
裁判年月日 1967年4月19日
裁判所名 広島高
裁判形式 判決
事件番号 昭和38年 (ネ) 110 
裁判結果 棄却
出典 訟務月報13巻7号864頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-均等待遇-信条と均等待遇(レッドパージなど)〕
 被控訴人は、本件免職当時の事情のもとにおいて、客観的にみて、マ書簡にいう共産党員またはその同調者に該当するとはいえないのであるから、被控訴人に対する本件排除措置は、すでにその範囲を逸脱してなされたものである以上、連合国最高司令官の指令に基づくものとして有効視することができない。次に、控訴人は、被控訴人は勤務成績が悪く、その職務に必要な適格性を欠いていた旨主張するけれども、右主張事実の認め難いことは、原判決理由五に判示するとおりであるから、これを引用する。
 (中略)
 被控訴人としては、当初は、なお、控訴人公社から退職を断念することができなくて、前記退職願も出さず、退職手当金も受領せず、ひたすら組合の救援活動に期待していたのであるが、その後、思うように組合の支持が得られなくなるに及んで、遂に退職手当金を受領するに至つたことを推認し得る。
 本来、退職金は、雇傭関係の終了を前提として受け取るべき性質のものであるから、被控訴人が本件免職に伴う退職手当金を受領したことは、前記認定の経過に照らして、もはや、本件免職の効力を争わない意思に基づいてなしたものと認めるのが相当である。たとえ、被控訴人が、右退職手当金を他の趣旨で受領し、後日本件免職の効力を争う積りであつたとしても、本訴提起に至るまで、控訴人公社に対する関係において、直接、被控訴人の右の内心の表示されたことを認め得る証拠がない以上、右の認定の何等妨げとはならない。
 そうしてみると、被控訴人が本件免職に伴う退職手当金を受領したことにより、控訴人公社において、もはや、本件免職の効力は争われないものとして、新しい人事と機構のもとに業務の運営をなすに至つたことは、尤もなことといわねばならない。
 しかるに被控訴人が、退職手当金を受領した時から六年以上の長期にわたつて本件免職の効力を争うことなく時日の経過するに委せておきながら、その後になつて思い出したように、突如、本件免職の無効を理由に雇傭関係の存在を主張し、雇傭契約上の権利を行使することは、雇傭契約の特殊性に鑑み、民法第一条に照らし、信義則に反するものというべきであつて、とうてい許されないものと解するのを相当とする。