全 情 報

ID番号 04337
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 山陽放送事件
争点
事案概要  「従業員は、その職務遂行上の必要により、配置された任地について原則として会社の定める地域内に居住しなければならない」旨の就業規則に基づき、「会社の定める地域」外に居住する従業員に対して六カ月の猶予期間内に転居しないときは退職扱いとする旨通告したことにつき、右通告の効力を争った事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 附随的義務の不履行
裁判年月日 1967年5月25日
裁判所名 岡山地
裁判形式 決定
事件番号 昭和42年 (ヨ) 85 
裁判結果 認容
出典 労働民例集18巻3号598頁
審級関係
評釈論文 藤堂裕・法学研究〔慶応大学〕41巻2号121頁
判決理由 〔解雇-解雇事由-附随的義務の不履行〕
 当裁判所は、申請人が主張するように(なお、申請人は、改正就業規則の実施に同意していないこともしくは同規則四五条が憲法第一二条に違反することを理由に、同規則四五条の無効をも主張している。)、被申請会社は、同条の解釈適用を誤つていると判断する。なるほど報道機関という業務の性質上、殊に小規模な支局の場合は、取材担当者に限らず局員全員が、緊急事態に対し迅速に対処しうるように日頃から十分に体制を整えておく必要があり、したがつて、気象状況によつて運行不順になりがちな船舶による通勤が一般に好ましいものではないであろう。しかしながら、居住地を制限するということは従業員の個人生活に多大の影響を及ぼす事柄であるから、同規則四五条の適用にあたつては慎重なる配慮が必要であつて、画一的に処理すべきでないことは、同条に、「その職務遂行上の必要により」「原則として」なる文言が明記されていることからも明らかである。
 そして、申請人の場合は、その担当業務の内容、海路とはいえ玉野市、高松市間は比較的交通の便がよいこと(前記フエリーは所要時間五五分、一時間に二ないし三往復、その他に国鉄宇高連絡船の便がある。)、過去一年間に申請人が天候不順のため遅刻したのは三回にすぎないことなどの事実に鑑み、申請人が玉野市内に居住することによつて受ける被申請会社の業務上の損害の程度に比べて、申請人が高松市内で別居生活をすることによつて受ける経済的、精神的損害は著しく甚大であるから、被申請会社は、例外的処置として、申請人が現住居に居住することを忍容するのが相当である。
 六 そして、同規則四五条に違反しないのに、これに違反するとして、近い将来退職扱いにすることもありうる旨通告され、別居か退職の二者択一を余儀なくするがごとき取扱いを受けることは、夫婦とも特に高給を受けているわけでもない申請人にとつて、多大の苦痛であることは明らかであるから、本件仮処分は、その必要性があるといわなければならない。