全 情 報

ID番号 04357
事件名 雇用関係存続確認請求事件
いわゆる事件名 バンク・オブ・インディア・リミテッド事件
争点
事案概要  組合用務のための組合員の昼食休憩時間の変更等の申入れの際に、組合執行委員長がなした言動につき使用者の総支配人が右委員長に手交した将来右のような行為があれば適当な懲戒手段をとる旨の書簡の撤回を求めてなしたストライキに際しての行為を違法として右委員長が懲戒解雇された事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の根拠
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
裁判年月日 1967年11月20日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和35年 (ワ) 10752 
裁判結果 棄却
出典 労働民例集18巻6号1160頁/タイムズ218号230頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の根拠〕
 使用者は労働者に対し就業に関する指揮命令権に基く固有の懲戒権を有するとともに契約法理上、一般に労働契約の解約告知権(解雇権)を有する以上、就業規則及び個別的労働契約において懲戒に関する特別の定めがない場合においても、本来さような定めがなければ労働者に課することのできない退職金受給資格停止等の不利益を伴わない限り、懲戒処分として労働者の即時解雇をなし得る理であり、また懲戒解雇の意思表示は労働契約の終了を効果意思とする点においては通常の即時解雇と少しも異るところがなく、ただ、専ら懲戒事由の存在を縁由とし、かつ企業秩序の維持確立を目的とする点に特異性があるにすぎないから、たまたま退職金受給資格を停止する趣旨でなされたとしても、その点の効果が生じないだけで、労働契約終了の効果発生を妨げるものではないと解するのが相当である。したがつて、被告が原告に対してなした懲戒解雇の意思表示は原告の退職金受給資格の停止如何を度外視すれば、一般の懲戒解雇と同一の法律事実として、なお意味があるものといわなければならない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 考えてみると、昭和三八年八月一四日副支配人Aが原告からBほか組合員の昼食時間変更等につき被告に許可を求められた際、原告に一〇分間の猶余を求めたうえBを出頭させて業務の都合を確かめようとしたのは使用者の従業員に対する就労上の指揮命令権に発する当然の措置であつて、なんら非難さるべき筋合はない。しかるに原告が、これに対しAの非を鳴らし、退室を促されながら、よういに従おうとしなかつたのは従業員として越軌の沙汰であるとの譏を免れず、原告が組合を代表して許可を求めたものであることによつて評価が動くものではない。もつとも、Aが当初、Bの出頭を求める理由を説明しなかつたことが原告の言動の一因をなしたものと推測されないではないが、Aは、これに先立ち原告に対し一〇分以内に回答すべき旨を告げたのであるから、原告から組合代表者を差し置いて事を処理しようとしたとして攻撃されるいわれがない。したがつて、総支配人Cが前記書簡をもつて原告の右言動を捉えて、その将来を戒告したのは、これまた使用者に許される当然の措置であつたといわなければならない。しかるに、組合がこれを執行委員長たる原告に対する不当な懲戒の予告であつて、組合活動に干渉し組合を圧迫する意図によるものであるとして、その撤回を要求したのは書簡の趣旨を曲解し、独自の観点から事態を深刻過大に受け止めたものというほかはない。そして、組合が右要求に関する団交において被告から右書簡の趣旨につき右説示に帰着する説明を受けながら、これに耳を藉さず、また被告の約束した団交を二日後に控えながら、これを待たないで、争議に突入したのは右要求に固執する余り、事理弁別の域を超え、性急に失した嫌いがある。もつとも、右要求は単に使用者を苦しめることを目的とするものではなく、組合の団結権および行動権に対する干渉の排除を基調とするものであつて、その点では被告も全面的に容認すべきところである(といつても、ここでは被告に不当労働行為があつたというのではない。)以上、争議の過程において団交を通じ労使間に合理的な妥協の成立を期し得ないものではないから、右争議をもつて被告主張のように直ちに、その目的において違法であると断じることはできないが、組合が少くともストライキ決行と同時に前記態様において被告東京支店の店舗を全面的に占拠し、一時は総支配人兼東京支店長Cおよび副支配人Aの入行まで阻止したほか、その後もストライキ終結時まで非組合員および顧客の入行を阻止し、また右店舗が所在する第三者所有の建物の外部にビラ類を貼り付けたことは、いずれも、争議手段として許される正当な範囲を逸脱したものというべきであり、争議の目的が客観的には被告において、とうてい応じ難いと思われる右書簡の撤回要求以外に、さし迫つた具体的要求になかつたことに徴すると、右のような違法な争議手段が被告のよく忍び得るものでなかつたことは推量して余りがある。そして、組合の右書簡撤回要求ならびにこれに続くストライキの決行および争議活動がすべて組合の執行委員長たる原告の指導によるものであつたことは前記認定のとおりであるから、被告がこれに原告の対Aの前記言動を考え併せ、かつ前出(一)の1ないし4にみられた原告の行動を参酌して原告を懲戒解雇すべく決意するにいたつたことは、まことに無理からぬものがあつたというべきである。
 したがつて、また右懲戒解雇の意思表示をもつて解雇権の濫用に当るとすべき理由はない。