全 情 報

ID番号 04385
事件名 地位保全仮処分事件
いわゆる事件名 横浜タクシー事件
争点
事案概要  第一組合と第二組合との組合間の紛争により就労を拒絶されていたタクシー会社の運転手が臨時に他のタクシー会社で働いていたことにつき、二重雇傭の禁止を定めた就業規則により懲戒解雇された事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 二重就職・競業避止
裁判年月日 1966年8月29日
裁判所名 横浜地
裁判形式 決定
事件番号 昭和40年 (ヨ) 975 
裁判結果 認容
出典 タイムズ198号180頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-二重就職・競業避止〕
 先ず会社が申請人等に適用した就業規則の懲戒解雇規定を検討するに、(証拠)によれば、会社の就業規則第三一条第一〇号には「会社の承認を得ないで在籍のまま他に雇入れられたとき」とあるのが認められ(中略)る。
 而して右規定は、二重雇傭の禁止を定めたものとみるべきところ、この規定の趣旨は、従業員が二重に雇傭されることによって会社に対する労務の提供が不能又は著しく困難となる虞があり、ひいては会社の企業秩序が阻害されることを防止するにあると解される。従って従業員が二重に雇傭された場合には、二重雇傭という外形のみにとらわれることなく、雇傭されるに至った動機及び雇傭の実体を判断して、懲戒解雇となすに相当か否かを決しなければならない。
 このような見地から本件解雇をみるに、申請人等は二項認定のとおり、第二組合員の妨害で就労が困難となり、待期扱いとされ生計に窮したことから、妨害の激しかった間一時的に申請外会社等に雇傭されたもので、実力による就労妨害がやんだ後は常に会社に労務を提供していたが、会社は第二組合員の妨害を排除することなく、而も実力による就労妨害が継続している間はもとより、実力行使がみられなくなってからも終始申請人等の労務の提供を受領しないまま漫然と時を過し、傍観する態度をとり続けていたのであるから、斯かる経過に徴すれば、待期扱い中における申請人等の稼働が形式的には二重雇傭にあたるとしても、その動機において申請人等の責に帰すべきものがあるとは解し難い。また二項認定のとおり、単一組合である神自交を脱退しない申請人等は、いまだ第一組合員であること明らかであるから、第二組合員が、申請人等を除名したとしてその就労を阻止し会社にユニオン・ショップ協定の実行を求めることは許されないところであって、これは会社に対する業務妨害行為であり、会社の企業秩序を乱すものであるというべく、会社がこれを排除せず申請人等を本件解雇時まで長期間待期扱いとした点において、むしろ会社に責に帰すべき事由があったというべきである。
 そうすると、前記就業規則第三一条第一〇号に基く申請人等に対する懲戒解雇は、二重雇傭の実体を判断するまでもなく、相当といえず、解雇権の濫用といわねばならない。