全 情 報

ID番号 04397
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 丸井自動車事件
争点
事案概要  タクシー会社の組合役員が運賃値上げに伴う歩合給改訂に関する闘争につき違法な争議行為を企画、指導したとして懲戒解雇された事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
労働組合法7条1号
労働組合法8条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
裁判年月日 1966年12月22日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 昭和41年 (ヨ) 2259 
裁判結果 一部認容,一部却下
出典 労働民例集17巻6号1423頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 組合がプロパン車の安全性を疑い、これが営業用車両としての採用に反対して斗争したことは、当時としては、その安全性が一般に確認されていたことの疎明はないから、右斗争目的をもつて、あながち不当であるとは評しがたい。
 もつとも、会社がプロパン車の製造会社の社員をして、組合にプロパン車の安全性を説明させた際、組合員多数が押しかけ、大声を発して説明を受け付けず、右社員と激しく応酬したことは他社の社員に接する態度として常識を欠くとともに会社に対する必要以上の抗争手段に堕したきらいはあるが、暴力行為を伴う等特段の事情がない限り、これをもつて直ちに違法視するのは当らない。
 また、会社が一部組合員をプロパン車に乗務、出庫させようとした際、組合員らがこれを阻止しようとし、その車を取囲んで罵声を浴せたことも、会社が組合の反対を押してプロパン車を稼働させようとし、一部組合員がこれに同調したことに端を発したとみられる以上、これとの相対関係において、暴力行為を伴う実力行使に出た等、特別の事情がない限り、平和的説得の域を超えたものといえない。
 したがつて、右申請人らが組合の役員として、右斗争についての責任を問われる筋合はない。
 (中略)
 組合が会社の営業用車両の後部ガラス窓にステツカーを貼付するについて会社の許可を受けたことの疎明はなく、ほかにこれが争議中の慣行として承認されていたことの疎明もないから、右行為は会社の就業規則一四条に違反し、加えて、これにより車両後部の視界が狭まり、それだけ事故防止の障害となることは明らかである。したがつて、会社が組合に対してステツカーの撤去を要求したのは当然であつて、組合がこれに応じなかつたことは正当な争議行為といえず非難に値する。
 (中略)
 組合が始業時刻一〇分位前から職場集会を行つたことについては、会社の構内が使用された点および時間内に喰い込むことがあつた点で一応問題となるが、会社と争議状態にある組合が就業前の僅かな時間を利用して集会を開くには自己の職場を利用するのが適切で、ことに隔日に上番するタクシー運転手を組合員とする組合としては集会を開くのに、ほかに適当な手段もないことに想到すると、その結果、会社に格別の混乱をもたらす等、特段の事情がない限り、会社施設利用の故をもつて、直ちに違法視するのは酷に失するきらいがあり、また集会の勤務時間への喰い込みも、それが僅かな時間、時たま生じたにすぎないことからすると、これ亦同断である。
 組合が会社の許可しない場所に貼紙をしたことは、なるほど形式的には前記就業規則の規定に牴触するが、右貼紙が正常な組合活動の範囲を逸脱したり、会社の施設の効用を害したりする等、特別の事情がない限り、組合の執行部の責任問題にするほどにその違法性を重大視するには当らない。
 次に、組合が会社の禁止通告に拘らず、会社の構内に部外者を招じ入れて全自交東北ブロツク大会等を開催したことは前記就業規則の規定に違反し、かつ、会社の部外者の利用に供した点で、組合活動上これを是認すべき特別の事情の存在したことの疎明がない本件においては、一応非難されても、やむを得ない。右申請人らのこの点に関する責任については後述する。
 (中略)
 組合が両番手入の斗争戦術を採用し、これがため車両の出庫稼働が遅滞したことは、その態様からみると一種のサボタージユというべきであるが、組合執行部が前記(2)と同様、スト権を確立し、これに基いて行つたものである以上、正常な争議行為というべきであつて、組合執行部を問責すべき筋合ではない。
 (中略)
 以上通観すると、右(4)のステツカー貼付斗争、(5)のうち、全自交東北ブロツク大会等のための会社施設使用および(8)の会社役員に対する要求、抗議は、いずれも組合活動の正当性をもつて蔽いがたく、申請人X1、同X2、同X3および同X4は右諸行為につき組合の幹部として、これを企画、指導または実行したものと推認されるが、その責を問うのに、果して懲戒解雇をもつてするのが妥当か否かは自ら別問題である。
 そうして、右行為の結果、会社の業務に与えた消極的影響については疎明上必ずしも詳らかではなく、少くとも重大な支障が生じたことの疎明はないから、当時の労使関係の在り方その他諸般の情状を考えても、企業秩序の侵害に対する制裁として最も重い懲戒解雇に値する非行として評価するには足りない。
 2 申請人X1単独の処分事由について
 右申請人が負傷後、早退を申出でながら、地域共斗会議の宣伝カーに乗車し放送活動等を手伝つたからといつて、同申請人がタクシー運転の通常の乗務に堪えられる状態にあつたものとは即断しがたく、ほかに右早退事由が虚偽にわたつたことの疎明はない。
 してみると、右申請人が医師の診断書を提出して、早退につき会社の役員の承諾を得ている以上、格別の事情がない限り、右早退による欠勤につき同申請人が懲戒解雇をもつて処遇さるべきいわれはないものというべきである。
 (中略)
 そうだとすると、申請人X1、同X2、同X3および同X4に対する懲戒解雇の意思表示は公序に反し無効であつて、右申請人らは、なお会社の従業員たる地位を有し、右解雇による就労不能がもつぱら会社の責に帰すべき事由によつたものというべきである。