全 情 報

ID番号 04528
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 旭硝子事件
争点
事案概要  争議行為に際しピケッティングにより工場副長、庶務課長等会社側非組合員等の工場立入を阻止した行動等が違法な争議行為にあたるとして組合役員等が懲戒解雇された事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
労働組合法7条1号
労働組合法8条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
裁判年月日 1956年6月14日
裁判所名 福岡地小倉支
裁判形式 判決
事件番号 昭和29年 (ヨ) 332 
裁判結果 却下
出典 労働民例集7巻3号535頁/労経速報214号2頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 次に昭和二十八年十月九日会社非組合員Aの、同月十二日同じくB、C、Dほか二名の各入場を拒否した行為は、それらの人々が会社非組合員でありその業務上の必要で入場せんとするものである事は当時正門に居合せた監視班員並に申請人X1等にとつて知り又は知り得べかりし状況にあつた事が明らかであるに拘らず実力を以て之を阻止した点に於て前同様違法な監視行為であつたと言わねばならぬ。
 〔中略〕
 次に昭和二十八年十月十日より十六日迄の間正門に於て入出場する会社従業員E、F、G、H、I、J、K、L、M等の入出場を阻止した上之に対して所持品の検査を要求し、之を拒んだJの入場を許さず又Mの携帯品を取り上げた行為は、右Mを除き会社非組合員であるが、その検査要求がいづれも監視班員多数の環視の中で威力を示しその意思を抑圧してなされた点、右各女子職員が当時罷業の実体を阻害する虞のある物品を所持していたとは認め難い点に於て前同様違法な争議行為と言わねばならない。尤もMは成立に争のない乙第六十一号証によれば組合より差出された保全要員であると認められるから監視班員の要求に応ずべきものであるが、その携帯品が罷業阻害の用に供すべきものであつたと認め得べき確証はないから、その意に反して之を取上げたのは尚違法な行為と言うを妨げない。次に前示N、並に之と同様の目的で牧山工場診療所に通つていた会社従業員の妻Oに対し、診療所門に於て携帯所持品の検査を強要した行為も前同様の理由により正当なピケッティングの限界を逸脱した違法な行為と言うを妨げない。
 〔中略〕
 そこで以上に於て違法と認めた各所為が会社主張の前示就業規則の各条項に該当するか否かについて考察するに、
 業務上の用務を帯びて工場を出入場せんとした人々を威力を以て阻止し、又はその入出場を拒否しよつてその業務の遂行を妨げた所為並にそれによつて入場者を迎えて応待すべき業務担当の会社係員の業務を妨げた所為、受診者の診療所入場を拒否することによつて、これを迎えて診療すべき業務担当の係員の業務を妨げた所為はいづれも威力を用い人の業務を妨害したという刑罰法規に、又診療所で診療を受ける為入場を求めた者に対し威力を以て之を拒否して受診を不能ならしめ且つ侮辱を加えた所為は暴行を用ひ人をして行うべき権利を妨害、公然人を侮辱したという各刑罰法規に、又威力を示して入出場者の所持品の検査を要求した所為は暴力を用ひ人をして義務なきことを行わしめたという刑罰法規に、又鉄道引込線上に座込んで貨車の引出、押込を阻止した所為は、国鉄公社並に会社に対して威力を用い業務を妨害したという刑罰法規に、Pを牧労本部迄拉致連行した行為は不法に人を逮捕し、並に威力を以て業務を妨害したという刑罰法規に、又海上監視船列の設置並に具体的な船舶の出入に際して海上監視班員らのとつた行動は水路を壅塞して往来の妨害を生ぜしめ又艦船の往来の危険を生ぜしめたという刑罰法規に夫々触れるものであることが疏明されるから就業規則第百七十七条第五十八号に該当する事はその条項の文言に照らして明らかであり、又右のうち会社並にその業務担当係員の業務を妨げた所為が就業規則第二十七号に該当する事はその条項の文言に照らして明らかであり、尚右のうち工場の一部をなす正門、堂山門、診療所門、港町門、鉄道引込線上に於て威力を示した点が就業規則第百七十七条第四十三号に該当する事はその条項の文言に照らして明らかであり、貨車の引出、押込を阻止した為会社に本来無用の貨車留置料貨物保管料等を支出させた事が前示第百七十七条第五十七号に該当する事はその条項の文言に照らして明らかであり、又いわれもないのに純然たる外来者の入場を阻止し、若くは不法なピケッティングにより会社の取引先の業者に財産的損失を蒙らせた所為が前示第百七十七条第五十九号に該当する事も同条項の文言に照らして明らかである。(ところで会社は右各所為のうち就業規則第百七十七条第二号にも該当するものありとして之を適用しているが、同条項の文言の解釈よりして右条項の適用があるのは本人が就労中に該当違反行為があつた場合に限ると解するのが相当であるから、同盟罷業に参加して職場を放棄している間になした前示各所為に対しては適用の余地のないものであると言わねばならない。)而して申請人X2は牧労の争議指導最高責任者たる闘争委員長として(申請人X1は之に次ぐ争議指導最高責任者兼監視班の最高責任者たる副闘争委員長兼統制部長として)同盟罷業中牧労のなした監視行為につき、自からその実施方針の立案決定に参画し、右決定方針に基いてその具体的実施を指令或は指示し、又は監視行為に伴つて生じた具体的紛争の現場に臨んで自からその処置につき指導し、これら指令、指示、指導を自己を含む組合の意思として麾下組合員に示し、之に準拠して行動すべき事を命じた結果として右各違法ピケッティングの発生を見るに至つたのであるから、右各違法ピケッティング中自から実行しなかつた部分も当該違反行為者と意思を同じくし、之を介して実行した共謀共同行為と言うべくそれが就業規則第百六十九条に該当し、当該違反行為者と同一の責任を問わるべき事は同条項の文言によつて明らかである。
 〔中略〕
 右に認定した通り、申請人等の各行為は、いづれも会社の経営秩序を著しく紊す不当な行為であり、これに対する懲戒解雇も重きに失するとはいえない。従つて会社が申請人等の日頃の正当な組合活動の故に解雇したとすることはできずその他申請人等の全立証を以てするも、本件解雇が申請人等の日頃の正当な組合活動の故になされたとするに足るものはない。