全 情 報

ID番号 04536
事件名 雇用契約確認等請求事件
いわゆる事件名 駐留軍小倉キャンプ事件
争点
事案概要  駐留軍キャンプで勤務している労働者が信頼関係の存続が問題となる事由があるとして解雇されその効力を争った事例。
参照法条 労働基準法20条
労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 人格的信頼関係
解雇(民事) / 解雇の自由
裁判年月日 1956年9月8日
裁判所名 福岡地小倉支
裁判形式 判決
事件番号 昭和29年 (ワ) 666 
裁判結果 棄却
出典 労働民例集7巻6号1098頁/訟務月報2巻10号67頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇の自由〕
 労働者を解雇するに当つては、解雇権の濫用の許されないことは云うまでもないところであるが、労働協約就業規則その他の契約又は労働法の規定に反しない限り解雇は自由であつて正当の理由を要しないものと解するを相当とし、前記労働協約第十五条第五号が解雇に関する一般的基準を協議会で協議決定する趣旨と解すること前記の通りであるから、本件解雇当時右一般的基準が協議会で協議決定されていなかつた以上原告等主張の三(3)(イ)の主張はその前提において理由のない主張といわざるを得ず、本件解雇が解雇権の濫用にあらざることはいうまでもない。
〔解雇-解雇事由-人格的信頼関係〕
 前記のように解雇には解雇権の濫用が許されないことはいうまでもないが、正当の理由を要するものでないのであつて雇傭関係にあつては、その信頼関係の存続が疑われるような事由がある場合には、必ずしもその事実の存在が客観的に証明されなくとも解雇されることも亦やむを得ない場合がある。
 そこで本件解雇に至つた経緯をみるに成立に争のない乙第四号証及び同五号証の一、二によると、昭和二十八年八月六日原告等の所属する全駐留軍労働組合小倉支部は当時行つていた争議を妥結するに当つて、駐留軍及び福岡県小倉渉外労務管理事務所長との間に「争議妥結に関する同意書」と題する協定を締結し特にその第二項には「監督の選定及び使用は使用者側の基本的特権であり、この職権は使用者側が有することを認め同意する軍人及び非軍人監督が軍当局の定めた義務を果すための方法に一部労務者が不満があるからといつてこれ等の監督を解雇し又移動せしめない。その結果として解雇及び移動をなさしめる様な事はしないこと。」と規定せられていること。及び本件解雇当時、駐留軍が正規に設けた不服申立機関として苦情処理委員会があつたことが認められるところ、(右認定に反する措信すべき証拠はない。)原告等はその認めるように昭和二十九年二月八日午后五時頃職場明朗化を理由に小倉市内A神社境内において多数の者と共に、原告等の勤務していた小倉キヤンプモータープールの監督者である訴外Bに対しその監督上の態度につき反省を求める趣旨の会合に参加したのであつて、成立に争のない乙第五号証の一、二、によれば、駐留軍当局は右会合につき調査の結果これを前記協定の趣旨に反する軍の管理に対する干渉として強硬な態度をとるに至り、当初原告等を含む十一名に対する解雇の予告をしたが、その后関係機関の十数回に亘る折衝と当事者の苦情申出により、駐留軍当局は右十一名に対する再調査の結果、内五名の予告は取消したが、原告等を含む六名の予告は遂に取消されなかつたことが認められ、右認定に反する措信すべき証拠はない。
 ところで成立に争のない乙第五号証の一、二によれば駐留軍労務者は米国軍隊に労務を担供する関係上、軍隊における厳重な規律に従うべき特別の信頼関係を要請されているものであり、その労務者の指導監督は日本人のなかから任命された監督を通じて行い且つ前記協定によるも駐留軍当局は基地管理権の一環として監督者の選任維持につき特別な関心を有していたことが看取せられる。右認定を左右するに足る措信すべき証拠はない。
 以上のような状況の下に解雇された本件においてはその解雇を目して解雇権の濫用によるものであるとはいえない。