全 情 報

ID番号 04570
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 安永鉱業事件
争点
事案概要  第一組合員の第二組合書記長に対する傷害行為、警部派出所入口のガラスの損壊等を理由に懲戒解雇された従業員らがその効力を争った事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 暴力・暴行・暴言
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務外非行
裁判年月日 1960年9月21日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和34年 (ヨ) 275 
裁判結果 申請一部認容,一部却下
出典 労働民例集11巻5号960頁/時報243号29頁
審級関係
評釈論文 労働経済旬報474号18頁
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-暴力・暴行・暴言〕
 成立に争のない乙第一号証によれば被申請人の就業規則第八五条には、「懲戒は、譴責、出勤停止及び懲戒解雇の三種とする」と規定され、第八七条には「次の各号の一に該当するときは懲戒解雇とする。但し情状により出勤停止又は譴責に止めることがある」と規定され、同条の第一七号に「刑罰に処せられるような犯罪を犯したとき」なる定めがなされていることが認められる。
 しかして右規定の趣旨は、従業員において第八七条各号に形式上あてはまる行為があつても、当然に懲戒解雇に処せられるものとは限らず、本件のように私生活の中でなされた右行為については、それによつて被申請人の名誉ないし信用が、いちぢるしくそこなわれ、当該労働者をその企業内から排除しなければならない程度に悪質なものと認められる場合を除いては、懲戒解雇に処することを許さない趣旨のものと解すべきである。
 これを本件について考えてみるに、申請人等のAに対する傷害行為は、前記のとおり申請人等の私生活の中で生じたものであるとはいえ、これによつて申請人等の従業員たる体面をけがし、被申請人の名誉ないしは信用を或程度失わしめるものであるともいえよう。
 しかし更に、申請人等の行為の罪質、情状について考えてみるに、先に認定したところから明らかなように、本件の背景には、被害者Aの第一組合員に対する不信な行為が、根強く流れており本件の直接の動機も、当時ストライキ中の第一組合およびその組合員にとつて争議の勝敗を左右するものと考えていた組合員等の臨時の就労活動を妨害しているのではないかと疑われても止むをえないようなAの不誠実な行動にあり、一半の責任が被害者にも認められ、直接的には組合員等のかこみから外へ出ようとして振りまわしたAの手がたまたま第一組合員Bのあご下にあたつたことから、申請人等は、AがBを殴つたものと誤解し、憤激のあまりになされた偶発的かつ瞬間的な行為であつて、行為の結果も治療数日という軽い傷害であり、刑事責任も未確定であるとはいえ一審において罰金五〇〇〇円から一万円に相当するような比較的軽微な事犯である。更に本件後において、この事件を原因として第一組合と第二組合との間において紛争が生じたこと、また被申請人の企業秩序がこの為に乱れたというようなことの疎明も存しない。かえつて当事者間に争ないごとく昭和三五年八月一八日に両組合が統一されている。
 それ故申請人等の右傷害行為は、これによつて、申請人等を被申請人の企業から排除しなければならない程悪質重大な非行とみることはできない。
 従つて、被申請人が、申請人等の右傷害行為をもつて懲戒処分中の解雇処分に付するを相当としてなした申請人等に対する本件懲戒解雇処分は、就業規則の適用を誤つた違法があり、無効なものといわなければならない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務外非行〕
 同申請人の器物損壊行為は、前記のとおり派出所のガラスを割つたものであるが、その動機、損壊行為に至るまでの経緯は、後に述べるようにかなり悪質なものであつて、同申請人の従業員たる体面をけがし、被申請人の名誉ないし信用をある程度失わしめたものといえる。しかし更に同申請人の行為の情状について考えてみるに、
 前掲各証拠によつて明かなように、同申請人は、酩酊して前記派出所へ赴き、同所で捜査に従事していた検察官、検察事務官に対して暴言をはき、とりわけ福岡地方検察庁直方支部検事Cに対し「こら、C検事、お前はうまくおれを誘導尋問にかけたな」「このがんたれが、はつつちやろか、今でこそおとなしいが昔は暴れたぞ」などと言つて同検事にくつてかかり、一時捜査を妨害したが、同派出所に参考人として出頭していたDから、制止され、派出所の表へ連れ出されたのであるが、そのご間もなく派出所へもどつてきて窓ガラスを叩き割つているのであり、単なる器物損壊行為ではなくて公務執行妨害の性質をも帯びている悪質なものである。しかし、亦前掲各疎明によれば当時同申請人は、心神耗弱に至らないまでもかなり深く酩酊し窓ガラスを割つて後に泣いていたりその行動が平常とは多少とも異つていたことが認められるうえに、行為自体としても窓ガラス一枚を破つたにすぎず、本件懲戒処分当時においては既に深く自己の行為を後悔しており、爾後同様の行為が繰り返されるおそれはなかつたものと認められるので、同申請人から反省の機会を全く奪い同申請人を企業から排除することは、苛酷に失するものと解される。
 従つて同申請人の器物損壊行為をもつて、懲戒解雇処分に付するを相当とするほど悪質重大なものと評価してなした被申請人の同申請人に対する本件懲戒解雇処分は、就業規則の適用を誤つた違法なものであるから無効なものというべきである。