全 情 報

ID番号 04586
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 王子製紙事件
争点
事案概要  飲酒して出勤して新組合員に対して、新旧両組合間の問題を難詰して傷害を加えた旧組合員たる従業員が諭旨解雇された事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 暴力・暴行・暴言
裁判年月日 1962年4月16日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和35年 (ヨ) 2117 
裁判結果 却下
出典 労働民例集13巻2号438頁/時報318号30頁
審級関係
評釈論文 宮島尚史・ジュリスト290号92頁
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-暴力・暴行・暴言〕
 証人Aの証言によるまでもなく、被申請人の従業員が酒気を帯びて工場に出勤することは許されず、このことは正月といえども変わりはないのに、申請人は当日酒気を帯びて出勤し、争議以来懐いていた新組合員に対する憎悪の感情から、当時何ら責めらるべき事由もないB(同人が当時酒気を帯びていなかつたことは既述のとおりである。)に対し、いいがかりをつけて暴行を加え、更に制止しようとするCにも暴行に及んで、そのシヤツを引裂き、両名に全治約五日又は七日を要する傷害を被らせ、その結果被申請人の業務に前記認定のような妨害を与えているのであるから、その動機も、申請人が言うように、単純な正月の酒の上のこととして見のがすことはできず、その暴行、業務妨害の程度も必しも軽微なものと言うことはできない。
 また、被申請人が本件懲戒処分を決定するにあたり情状として考慮した申請人の過去における行為、すなわち前記(二)に認定したように、申請人が昭和三三年一一月二九日から昭和三四年一月二六日にわたつて被申請人の幹部職員又は同僚従業員に対してなした暴行、吊上げ等の行為は、その回数も一再でなく、その程度も前記認定のとおりであり、中には傷害罪により刑罰に処せられたほどのものもあるのであるから、必ずしも軽いものとは言えない。もつとも争議終了後である昭和三三年一二月一五日から昭和三四年一月二六日までの間に被申請人従業員によつて、申請人の右暴行、吊上げ等の行為と同種の吊上げ等による職場秩序びん乱行為が行われ、これらにつき昭和三四年三月二五日解雇四名、譴責二六名(うち謹慎附六名)、戒告五名、計三五名に及ぶ懲戒処分がなされたのに、申請人の右暴行、吊上げ等の行為については、まだなんらの懲戒処分も行われていないことは、当事者間に争のない事実であるが、しかし証人Aの証言によると、それは、被申請人が、申請人には争議中にもなお非行があつたとし、それと申請人の右暴行、吊上げ等の行為とを合せて、同人に対する懲戒処分を決定することとし、争議中の非行につき調査を進めているうち、本件懲戒処分の理由となつた暴行事件が発生したのであつて、申請人の右暴行、吊上げ等の行為が軽かつたために、被申請人がこれを懲戒処分の対象として不問に付したものではないことが認められるのである。更に、申請人は、従来苫小牧工場において従業員が勤務中の暴行によつて解雇処分に付された事例がないとし、これを理由に申請人に対する懲戒処分は重きに失する旨を主張し、証人Dの証言によつて真正に成立したものと認める甲第一六ないし第一八号証(但し甲第一六号証中「E」に関する部分以外の記載内容は、証人Aの証言に比照して、採用することができない。)及び証人Aの証言によると、昭和二四年四月から昭和三五年三月までの間に被申請人苫小牧工場において従業員が勤務中の他の従業員に対して加えた暴行又は暴行傷害について、いずれも譴責又は戒告処分にとどまり、解雇処分にはならなかつた事例が数件あることが認められるのであるが、同証言によると、被申請人は、これらの従業員については、いずれもその行為が累犯的なものでなく、その動機において被害者にも責めらるべき事由の一端があり、又は被害者とは親戚関係にあるなど、情状を酌量すべき余地が多く、かつ改悛の情も明らかであると認めたために、解雇処分に付することなく、譴責等の処分にとどめたことが認められるのであるから、このような事例と比較して、本件懲戒処分を重きに失するとするのは当らない。