全 情 報

ID番号 04611
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 西日本鉄道事件
争点
事案概要  民法五三六条二項にいう「債権者の責に帰すべき事由」は、信義誠実の原則ならびに一般社会通念によって判断すべきものであり、無効な解雇による就労拒否の場合には、使用者による解雇の無効が認識されていることは要件とならないとした事例。
 賃金支払の仮処分申請につき、基準内賃金についてはその後の昇給分を加算し、基準外賃金については労基法一二条の平均賃金の算定方法によった事例。
参照法条 労働基準法12条
民法536条2項
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 無効な解雇と賃金請求権
賃金(民事) / 賃金・退職年金と争訟
裁判年月日 1963年2月18日
裁判所名 福岡地
裁判形式 決定
事件番号 昭和37年 (ヨ) 443 
裁判結果 一部認容・却下
出典 労働民例集14巻1号332頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金請求権の発生-無効な解雇と賃金請求権〕
 被申請人会社は一応無効と認めらるべき前記懲戒解雇の名の下に不当に申請人の就労を拒否し、これによつて申請人はその労務の履行をなすことが不能になつたものといわなければならないから民法第五三六条第二項にいう「債権者の責に帰すべき事由に因りて履行をなすこと能わざるにいたりたるとき」に該当し、申請人はその就労不能の解雇期間中反対給付たる賃金の支払を受ける権利を失わないものといわなければならない。そして、民法第五三六条第二項にいう「債権者の責に帰すべき事由」は信義誠実の原則並びに一般社会通念に照らして判断すべきであつて、本件の如き不当解雇による就労拒否の場合には必ずしも債権者たる使用者において主観的にその解雇が不当ないし無効なものと認識することを要しないものと解するのが相当であるところ、被申請人会社は、前記懲戒解雇につき被申請人会社従業員で組織する被申請人会社労働組合の承認を得たこと、前記仮処分決定に対する異議申立事件の第一、二審判決中において右懲戒解雇の対象となつた申請人の行為(所持品検査のとき靴を脱がなかつたこと)が就業規則所定の懲戒事由に該当するものと判断されたこと、なかんづく右異議申立事件の第一審判決において右懲戒解雇そのものが有効と判断されたことなどの事情からみて被申請人会社が右懲戒解雇を有効と信じ且つそのように信ずるについて相当な理由があるから、右懲戒解雇に基く申請人に対する就労拒否は「債権者の責に帰すべからざる」ものであり申請人は賃金支払をうける権利がない、としてその支払を拒絶している。しかしながら、被申請人会社が右のような事情のもとに右懲戒解雇を有効なものと信じたとしても、それだけで本件の如き不当解雇による前記就労拒否を「債権者の責に帰すべからざるもの」と解することはできない。
〔賃金-賃金・退職年金と争訟〕
 このような賃金型態、ならびに昇給協定などの事情を考えると、申請人の本件被保全権利たる賃金額を算出するには先づ一応基準賃金と基準外賃金とに区別して算出する必要があると認められ、しかも基本給については申請人は他の一般在籍従業員と同様に昇給をうける権利があるものと解するのが相当である。けだし、本件の如き不当解雇期間中の賃金が労働基準法第一二条に定める算出方法によつて算定された平均賃金に限られるという理由がなく、また右平均賃金の算出方法がこれを算定すべき事由の発生した日(本件においては前記出勤禁止処分のあつた日)以降における右各昇給によつて影響をうけないからといつてこれを申請人に対する右各昇給を否定する根拠とすることもできないであろう。
 疏明にあらわれた前記各昇給協定による配分ならびに調整基準によると、申請人の基本給は前記第一回目の昇給により昭和三五年四月分以降一、四五〇円、第二回目の昇給により昭和三六年四月分以降一、九四〇円それぞれ昇額し、結局において申請人の基本給は昭和三六年四月分以降一九、五九〇円となることが認められる。そして右基本給に前記家族給二、六〇〇円を加えると申請人の基準賃金は昭和三六年四月分以降二二、一九〇円となる。つぎに、基準外賃金については、労働基準法第一二条所定の算出方法にならい前記出勤禁止処分前三ケ月間に支払われた基準外賃金の総額をその期間の総日数で除した金額(日額)二三一円の割合で算定(二八日の月は六、四六八円、三〇日の月は六、九三〇円、三一日の月は七、一六一円となる)するのが相当である。