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ID番号 04617
事件名 解雇無効確認等請求控訴ならびに同附帯控訴事件
いわゆる事件名 駐留軍労務者事件
争点
事案概要  駐留軍労務者に対する保安解雇につき、右解雇が無効なときは、国は駐留軍と同一の地位にあるから、民法五三六条二項の責任を負うとされた事例。
参照法条 民法536条2項
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 無効な解雇と賃金請求権
解雇(民事) / 解雇事由 / 保安解雇
裁判年月日 1963年3月7日
裁判所名 福岡高
裁判形式 判決
事件番号 昭和33年 (ネ) 719 
昭和34年 (ネ) 294 
裁判結果 取消・棄却・一部認容
出典 労働民例集14巻2号392頁/時報351号44頁/訟務月報9巻3号341頁
審級関係 一審/福岡地/昭33.12. 9/昭和33年(ワ)243号
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金請求権の発生-無効な解雇と賃金請求権〕
〔解雇-解雇事由-保安解雇〕
 被控訴人両名に対し、先になされた昭和三一年一月二〇日附出勤停止並びに同年七月一〇日附解雇処分が無効であることは既に前示説明のとおりであるから、被控訴人Y1に対しては昭和三四年七月一日以降、同Y2に対しては同月三日以降、控訴人による人員整理を原因とする解雇の効力が発生するまでの間、被控訴人等と控訴人との間には雇傭関係が存続していたことは明らかで、右有効な雇傭関係の継続中、被控訴人等において所定の労務を提供したのに拘らず、前掲出勤停止並びに保安解雇を理由に米駐留軍がこれを拒否し、延いて控訴人も又被控訴人等を就労せしめ得なかつたことは、当審証人Aの証言及び本件口頭弁論の全趣旨によつてこれを認めるに十分である。そして、控訴人の主張する前掲保安上の解雇理由が証明されず、正当性の根拠がなく、被控訴人等に対する解雇が不当労働行為にあたるとして無効と判断された以上控訴人において被控訴人等に対し賃金支払義務のあることは、これまたまことに明白であるといわねばならない。控訴人は、保安解雇処分は米国駐留軍独自の立場からなされ、控訴人の介入する余地はなく、控訴人に故意過失はもとより保安解雇の有効を信ずるについて過失もないので、控訴人の責に帰すべき事由によつて被控訴人等の労務提供を受け得なかつた場合にあたらないとして、民法第五三六条二項により賃金支払義務の存在を否定し、又軍の都合による休業手当(平均賃金もしくは正規勤務について給与すべき額の六〇%)を支給すれば足る旨など種々抗弁するけれどもこれらの抗弁はいずれも採用の限りでない。けだし、控訴人は米国駐留軍に代つて被控訴人等労務者と雇傭契約を締結し、これら労務者の労務を駐留軍に提供すべき義務を負担しているいわゆる間接雇傭の形式による使用者であつて、労務者との間の雇傭契約上の権利義務は総て控訴人が第一次的にその責に任ずべきであるから雇傭契約より生ずる権利義務に関する限り、控訴人は全く米国駐留軍と同一の地位にあるものといわねばならず、従つて米国駐留軍の不当解雇は反射的に控訴人の不当解雇であつて、その責任を免かれ得ないと同時にこれが軍の都合による休業にも当らないことは、極めて自明のことであつて、これが責任を駐留軍の名にかくれて回避することは許されないものとせねばならないからである。