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ID番号 04674
事件名 不当労働行為救済命令取消請求事件
いわゆる事件名 YED相模本廠事件
争点
事案概要  駐留軍労務者に対する保安上の理由に基づく解雇につき解雇の真の理由は組合活動にあるとして不当労働行為にあたるとして争われた事例。
参照法条 労働組合法7条1号
日米安保条約3条
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 保安解雇
裁判年月日 1957年11月28日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和31年 (行) 22 
裁判結果 棄却
出典 労働民例集8巻6号982頁/タイムズ75号77頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-保安解雇〕
 保安上の理由による解雇は指揮官の報告書に基き最終的には極東陸軍司令官の決定するものであることが認められ、また成立に争いのない乙第三号証の五によればその事実上の決定は保安委員会がなすものであることがうかがわれる。しかしながら諸資料中に組合活動に関する資料が含まれないとの事実を認めるべき証拠はなく、上部機関においては不当労働行為の意思を持ち得ないと断することを当然とすべき論拠もない。また下部組織である現地部隊が差別待遇の意図に基いて解雇の上申をなし、その上申に基いて解雇がなされるという因果関係の存しうる場合には、解雇決定者が右の上申と別箇無関係に意思決定をなしたという特段の事情がない限りやはり不当労働行為を構成するものと解するのが相当である。したがつて沖津の解雇が部隊の上部機関である保安委員会の決定によるとしても、その一事によつて不当労働行為の成立する余地がないと断ずることはできない。
 三、そこで原告の主張する沖津の解雇理由について検討する。
 原告は、駐留軍はAを基地内に継続して就労させることが米国の利益に反する(Aはその解雇後に協定された昭和二十九年二月三日附労務基本契約付属協定第六九号第一条A項二号「米軍側の保安に直接的に有害であると認められる改策を継続的に且つ反覆的に採用し若しくは支持する破壊的団体又は会の構成員たること」に相当する)と判断し、Aの解雇を決定したものであり、かつその認定資料及び具体的事実は米軍の軍機保護上原告側に提示されないけれども、その決定は米極東陸軍保安委員会の慎重な審議によるものであるから誤りのないものと主張する。しかしながら米軍の特別機関の審議によるものであるとの一事によつてAが保安上有害であり前記付属協定第六九号第一条A項二号に該当する客観的事実の存在を推認することはできないし、その他右解雇理由の具体的事実を認めるべき証拠がないから右事実が存在するとする原告の主張はこれを採用することはできない。ところで不当労働行為の成否の判定については不利益処分の決定的理由が使用者の主張する解雇理由によるものであるか労働者側の主張する差別待遇意図によるものであるかによつて決せられるのであるが、その判定は使用者の主張する解雇理由が一応存在するという一事によつて決定せられるものでない。労働者の団結権を保障した憲法の精神に鑑み、不利益処分を受けてもやむを得ないと認められるような労働者側の非難さるべき行動とか使用者の業務遂行上の特別事情のない限り、その表明された理由は単なる名目に過ぎないおそれがないとしないからである。
 してみると、Aに対する解雇の理由が保安解雇であつても、具体的該当事実がないためその妥当性を肯認するに由ないので直ちにこれを解雇の決定的理由と速断しがたく、単なる名目に止まり他に解雇理由の存在することを疑わせるものというべきである。
 〔中略〕
 以上認定した事実によればAは活溌に組合運動をなしていたものであつて、使用者である軍もこれに注目していたものと認められるので、前記のように軍の解雇理由になにら客観的妥当性を認めるに足りないことを併せ考えればAの本件解雇は軍が同人の組合活動を嫌悪しこれを決定的理由としてなした不当労働行為であると推認するのが相当である。しかして、成立に争いのない乙第三号証の九(いわゆる日米労務基本契約)によれば、駐留軍労務者の雇入及び解雇は駐留軍の決するところに委せられていると認められるのに駐留軍の解雇決定が不当労働行為であるときは日本国のなしたと同様雇用者たる国はその責任を免れることはできないと言わねばならない。
 五、以上のようにAに対する本件解雇は不当労働行為と認定すべきもので、被告委員会が前記のような命令を発したことは相当であるから、同命令の取消を求める原告の本訴請求は失当である。