全 情 報

ID番号 04682
事件名 仮処分異議申立事件
いわゆる事件名 和歌山パイル織物事件
争点
事案概要  A会社に就労していた織工を下回りの仕事に配置転換させ、それがいやなら会社を辞めてくれとして右配転を拒否した労働者の就労を拒否し、その後無断欠勤を理由として解雇の通告をした使用者に対し被解雇者がその効力を争った事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界
解雇(民事) / 解雇事由 / 無届欠勤・長期欠勤・事情を明らかにしない欠勤
裁判年月日 1959年3月14日
裁判所名 和歌山地
裁判形式 判決
事件番号 昭和33年 (モ) 433 
裁判結果 認可
出典 労働民例集10巻2号127頁
審級関係
評釈論文 加藤俊平・ジュリスト198号75頁
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
 そもそも労働者の同一職種における場所的組織的移動乃至変更、もしくは従来の職種に密接な関係にある職種えの配置転換は、組合活動などを理由とする特段の不利益待遇とみとめられない限り、たとえ工場外におけるその労働者の生活に多少の不便不利益がともなつても、それは業務運営上、また人事管理上の措置として、使用者の専権裁量に属するものであるけれども労働者の日常生活に影響を及ぼす賃金の相当な減収、もしくは特に技術者乃至熟練工においては、その過去の経歴にてらして、将来にわたる技術的な能力、経歴の維持乃至発展を著しく阻害する恐れのあるような職種乃至職場の転換は、当該労働者の同意あるいは事業不振による操短乃至技術革新による整備、もしくは労働者側における非能率等、客観的にみとめられる企業維持のための純粋に経済的、技術的必要性がなければなし得ないところで、かかる限界をこえた職場転換は、使用者の裁量権である配置転換を逸脱して、継続的な債権関係としての労働契約の約定を一方的に変更する契約違反と目すべきこと契約当事者としての労資間を対等の立場に近ずけ労働者の地位を向上させ以て総資本の立場からの健全な労働力の、ひいては社会経済の再生産ならびに発展をはかる現代労働法の法理から当然に帰結されるところである。
 (ロ) しかるにこれを本件についてみると、前記(1)の認定事実を総合すれば、七月一日当時申請人両名の原職がすでに充員されていて、原職復帰が一応不可能であることが認められるけれどもこれは被申請人会社がA会社の操業再開にともない申請人両名を復帰せしむべき協定がありながら、またその可能性も双方に十分あつたにもかかわらず、その協定を無視してことさら他の労働者を配置充員せしめたことに起因するものであることが一応認められる。また申請人両名は被申請人会社の命ずる下回りの労務に転換することによりいちぢるしく収入を減じまたA会社熟練工としての将来にわたる技能経歴の維持について不安をいだかせるような職種の変更となることは前記認定事実に徴し一応明かなところである。従つて如上の認定事実をあわせみると被申請人会社が命じた職場転換は、前記判旨にてらして何等客観的な企業としての必要性に基くものでなく、配置転換としての裁量権を逸脱した不当なものであつて、また当事者間の労働契約の約旨に反し、何等申請人両名に対抗し得られる筋合のものでないことが一応みとめられる。〔解雇-解雇事由-無届欠勤〕
 本件解雇の理由である「正当な理由もなく無断欠勤継続三日以上におよぶとき」の法律的な意味について考察すると、これは労働契約という継続的債権関係における労働者の信義則違反乃至債務不履行の責を問うものである。従つて労働者から労務についての履行の提供がありながら、使用者がその故意過失により約旨にもとずく労務の受領を拒否し、不能にする等受領遅滞の事実があれば、少くともその時から労働者は不履行等の責をまぬがれ、欠勤しても右事由に該当しないものとすべきことは労働契約の法律的社会的性格ならびに信義則からして当然である。
 (4) 本件解雇の事由の有無
 そこで(1)(2)の認定事実を(3)の判旨にてらして考量すると、被申請人会社は同年七月一日、申請人両名がA会社織工として入社した労働契約本来の約旨によつてなす原職における労務の提供を故なく拒んで、その約旨に反する職場転換を命じ、その後も原職復帰を認めていないのであるから、申請人両名がその職場転換を肯んじなかつたよぎり、その後両名が何等の手続なく欠勤三日以上におよぶとも、「正当な理由もなく無断欠勤継続三日以上に及ぶとき」に当らない。従つて本件解雇は、被申請人会社を拘束する労働協約所定の理由をみたしていないものというべく、他に解雇についての主張疎明のない本件においては、その余の判断をまつまでもなく一応無効なものと認められる。