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ID番号 04702
事件名 仮処分控訴事件
いわゆる事件名 三井化学工業事件
争点
事案概要  工員が他の係の係長に対し暴行をはたらいたことを理由として「職務上の指示、命令に不当に反抗し、または上長に対し暴行、脅迫を加えた者」という就業規則の懲戒解雇事由にあたるとして懲戒解雇された事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
労働組合法7条1号
労働組合法8条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 暴力・暴行・暴言
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
裁判年月日 1959年11月12日
裁判所名 福岡高
裁判形式 判決
事件番号 昭和32年 (ネ) 595 
裁判結果 棄却
出典 労働民例集10巻6号1114頁/タイムズ98号67頁
審級関係 一審/04664/福岡地/昭32. 7.20/昭和31年(ヨ)248号
評釈論文 日労研資料473号15頁/法学研究〔慶応大学〕33巻6号73頁/法学研究〔慶応大学〕35巻1号105頁/労働判例百選〔ジュリスト252号の2〕176頁
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-暴力・暴行・暴言〕
 Aは右の意味において控訴人に対して上長ということはできないが、就業規則第八十六条第十三号が特に職場秩序の保持を目的とした規定であることに徴すればAがB工場の係長として右工場における作業および施設管理と秩序維持についてその職責に基いて直接の権限を有する者であり、しかして本件はその職務上の指揮、命令関係ではないにしても右工場において岩越の右職責遂行に関連してなされたものである以上、右懲戒規定は当然本件の場合に類推適用さるべきものと解すべきである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 控訴人がB工場および計器室における行動は既に認定のとおりであつて、右認定に反する控訴人の主張は事実に反するものとしてとうてい採用することができない。すなわち控訴人は本件B工場におけるピケの企画についての責任を有するものと推定され、かつ右現場においてこれを率先実行した者であるとなさざるを得ない。もとより当時の組合書記長Cの如きも右B工場のピケについて責任を有することは原判決が解雇理由(一)、(二)の事実について認定した諸事実からしても窺い得るところではあるが、その責任の追求については会社側がその裁量権に基き諸般の事情を総合して決定し得るものといわなければならない。しかして使用者がある従業員に対してはことさら軽微な不当行為を取り上げて不相当な重い処分をし、同じ行動をした他の従業員に対しては寛大に取り扱つた場合には不当労働行為が成立し得る余地のあることはいうまでもないところである。これを本件B工場のピケの場合についてみるに当時Cは組合書記長であり、控訴人は組合の執行委員として組織部副部長の地位にあつて、組合内部において争議対策を掌る職責を有しいずれも右争議行為の実施方法を決定する執行委員会の構成員であつたものであるが、右ピケ企画の責任についていずれを重しとするかについての責任は全資料によつてもこれを明らかにすることができない。しかしながら右ピケを率先実行した点については本件これを前示認定の諸事実とこれが認定に供した諸資料に徴し右C書記長を含めた他の組合幹部のうちで控訴人を最も重しとしなければならないのであつて、しかもさきに認定したように控訴人等の右行為が会社の業務を著しく妨害する不当な行為であり、右行為の結果会社に少なからざる損害を与えたものであるから、右行為の故に控訴人を懲戒解雇にしたのは会社としては一応やむを得ない措置と認められる以上、会社がたまたま同様の責任を追及さるべき立場にあるC書記長等を解雇しなかつたからといつてこれを以つてただちに控訴人に対する右解雇が同人の平素の正当な組合活動を真の理由とするものとなすことはできない。もつとも原審ならびに当審証人D(ただし原審の分は第二回のみ)の各証言によれば会社としては既に昭和三十年十一月十二日のE人事課長に対する暴行事件(解雇理由(四)の事件)の直後から控訴人に対する懲戒処分を考慮していたことが窺われないこともないので、当裁判所としては特に右B工場におけるピケが争議中の出来事であり、しかもそれが組合の意思決定に基いて行われた組合活動である点、会社が控訴人のみを懲戒解雇し他の組合幹部に対してはなんらの懲戒処分もなさなかつたこと等に留意し、種々検討を加えたのであるが、結局前記D証言(ただし原審第二回分のみ)と原審証人Fの証言に前記解雇理由(一)、(二)について認定された争議行為の違法性とその間における控訴人の言動ならびに右争議行為の会社に与えた影響および本件懲戒解雇に至つた経過等にかんがみ本件解雇は前記解雇理由(一)、(二)に示された違法な争議行為ならびにそのため会社の設備機械を損壊し会社に損害を与えたことに対する責任を問うたことを決定的動機としてなされたものであると認定せざるを得ず、原審の見解を支持せねばならなかつた次第である。従つて本件解雇は不当労働行為ではないから解雇理由(三)、(四)が正当な組合活動であることを理由としての控訴人の不当労働行為の主張は採用することができない。