全 情 報

ID番号 04703
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 三和電機工業事件
争点
事案概要  コイルの搬出作業を妨害したこと等を理由として従業員が懲戒解雇された事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務妨害
裁判年月日 1959年11月13日
裁判所名 横浜地
裁判形式 決定
事件番号 昭和33年 (ヨ) 771 
裁判結果 一部認容・却下
出典 労働民例集10巻6号1022頁
審級関係
評釈論文 加藤俊平・ジュリスト221号88頁/労働法律旬報371号3頁
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 被申請人の従業員就業規則第五十七条によれば「右の各号に該当するときは懲戒解雇する。但し情状によつて昇給停止又は減給にとめることができる」と規定され、従業員において同条各号にふれる行為があつても必ず懲戒解雇されるとは限らず、むしろ、従業員においてたとえ右各懲戒事由に該当する行為があつたとしても、それが被申請人と従業員との間の雇傭契約上の信頼関係を裏切り、到底これを維持し得ない程度のものと認められる場合を除いては懲戒解雇は許されず、この程度に達しない些細な事実をとらえて直ちに懲戒解雇することは解雇権の濫用であつて、解雇としての効果を生じないものと解するのが相当である。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務妨害〕
 右両名の解雇理由(2)の国鉄吹田工場発注のコイル搬出妨害の行為について検討すると、申請人等は被申請人は製品の搬出については組合と話合のうえ、行う協定になつていたのに、被申請人が組合に無断でかかる搬出の挙に出たので、右申請人両名はじめ組合員がこれを阻止した旨主張するが、すでに述べた如く、かかる協定についての疎明はなく、被申請人は組合からそのような申入を受けた際、今後なるべく組合のいうように協力する旨回答したに過ぎず、従業員である組合員としては使用者である被申請人の製品搬出を妨害することは許されないものといわなければならない。更にこのコイル搬出にあたつては当日午前中女子従業員A、B等も右コイルを二階から階下へ運搬し、その箱詰を手伝つて居り、被申請人としても特に組合に内密に無断で搬出しようとしたものでないことが一応認められるのである。そしてCがコイルの箱に釘打をし繩を掛けている際、同所を通りかかつた申請人X1が、コイルが大阪へ発送されるものであることを聞くや、話合がつくまでと称して単に搬出を阻止したにとどまらず、会社の工場の二階へ持ち去り、隠匿して自己の支配下におき、申請人X2も、申請人X1と意思を相通じて、同申請人からコイルを取り返そうとするCに対し身をもつて妨害し、その結果同申請人をしてコイルを奪取隠匿させたうえ、申請人両名は被申請人からのコイル返還の要求にも応ずることなく、コイルの納期である昭和三十三年十一月五日をはるかに過ぎた同月二十日頃まで何等の権限なくこれを自己の支配下においた後、漸く返還したことが疎明され、右の行為は第九号の懲戒事由として情状の重いものというべきである。右のほか、申請人X1は解雇理由(1)、(3)、(5)、(10)の各行為を、申請人X2は(1)の各行為をなし、申請人両名の右諸行為の集積は、被申請人との間の雇傭契約上の信頼関係を破壊し、到底これを維持し得ない程度に達したものと認めるのが相当である。一方申請人が申請人両名を解雇するにあたり、申請人等が主張するように申請人両名が正当な組合活動をしたことが決定的な動機となつたものと認めるに足る疎明もない。従つて被申請人が昭和三十三年十一月二十五日右申請人両名に対してなした解雇の意思表示は有効なものといわなければならない。