全 情 報

ID番号 04715
事件名 雇用関係確認等請求事件
いわゆる事件名 安全タクシー事件
争点
事案概要  タクシー運転手が降りる場所を間違えた客についてサービスのつもりでメーターを倒さずに約九〇メートル乗車させた後、客が置いていった五百円をチップとして考え運転日報に記載しなかったことを不正行為として懲戒解雇されその効力を争った事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
民法709条
民法710条
民法723条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1989年2月16日
裁判所名 長崎地
裁判形式 判決
事件番号 昭和62年 (ワ) 500 
裁判結果 一部認容(控訴)
出典 タイムズ700号189頁/労働判例547号63頁/労経速報1369号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕
 原告が前記認定のような経過でAをメーター不倒のまま乗車させ、同人の置いていった五〇〇円硬貨をチップとして扱い、被告会社に対しこの経緯を強調した行為などは、料金の横領着服に該当しないことはもとより、何れの点においても、前記各懲戒事由に該当せず、あるいは形式的にこれにあたるように見えても、懲戒解雇に相当するような違法性を有するものとは到底いえないことが明らかである。したがって、被告会社の本件懲戒解雇は、その前提とする事実の認定を誤り、あるいはその評価を誤り、その結果懲戒解雇事由がないのになされたものであるというほかはない。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 1 原告の行為が何れの点においても料金の横領着服に当たらないことは前述のとおりである。
 2 また、原告の行為が右のとおり料金の横領着服に当たらないこと、並びに、原告に料金メーター不正使用の意図及び料金不法領得の意思がなかったことは、原告とAの二回目の乗車の経緯及び五〇〇円硬貨授受の状況などの事実関係に関する供述が基本的に一致しており、事実経過自体の認定は容易であったことや、その後の陸運支局の指導などに照らして、被告会社にも十分明らかであったというべきである。
 ところが、被告会社は、前記認定のような労使関係を背景に、料金着服等を理由に原告を懲戒解雇するとともに、被告会社の総務部長であるBらにおいて、敢えて、被告会社一階運転従業員控室兼食堂に設置された大型の黒板に、請求原因4項のとおり、原告が料金メーター不倒にてお客さまを乗車させ、料金を横領着服したので懲戒解雇した旨を大書して、少なくとも約二週間これを掲示した。
 3 右運転従業員控室兼食堂は事務室及び無線配車室にもつながっており、被告会社従業員多数が常時出入りし、休憩などするほか、部外者もしばしば出入りしており、原告の名誉は右掲示によって毀損され、原告は著しい精神的苦痛を被った。
 4 以上の事実は、Bらの故意に基づく不法行為に該当するというべきであるから、その使用者である被告会社はこれによる損害を賠償するなどの義務を負う。
 三 損害等について
 1 原告が前記名誉毀損行為によって被った精神的苦痛は、前記掲示のなされた期間、場所、表現、原告の被告会社や労働組合その他における社会的地位、その他本件に表れた諸般の事情を総合勘案すると、これを金銭に換算するならば、少なくとも、四〇万円を下らないものというべきである(ちなみに、本件において原告は、懲戒解雇処分自体を不法行為に該当すると主張している訳ではないから、賠償の対象となる精神的苦痛は、名誉毀損自体に関するものに限定される。)。
 2 また、原告の毀損された名誉を回復するためには、原告の請求するように被告会社に謝罪文の掲示を命ずるのが適当である。