全 情 報

ID番号 04719
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 ダイエー事件
争点
事案概要  業務上の事由による腰痛症を罹患していたスーパー従業員が食肉運搬にかかわって受傷した右肩関節炎等につき使用者に対し安全配慮義務違反に基づく損害賠償を請求した事例。
参照法条 民法415条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1989年2月28日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和61年 (ワ) 796 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1363号18頁/労働判例542号68頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 右争いのない事実によれば、昭和五一年六月の腰痛症が労災事故によるものであるかどうかにかかわらず、被告は、原告の使用者として、少なくとも原告に再び腰痛症が発生することのないようにするため、原告を他へ配置転換したり、重量のある食肉の運搬は他の従業員に行わせるなどして原告が業務中に重量物を持つことを余儀なくされることのないように配慮すべき労働契約上の安全配慮義務を負っていたものということができる。
 三 ところで、被告は、本件事故当時、原告に重量物を持たないように注意したうえで、その裁量でできる範囲の作業をすればよいことにするなどして安全配慮義務を履行しており、本件事故は、原告が共同で作業していたアルバイト学生の接客業務が終わるまでの僅かな時間さえ待たないで一人で作業したために発生したものであり、原告自らの過失によって発生したものであると抗弁するので、以下この点について検討する。
 〔中略〕
 以上認定の各事実及び前記一で認定した本件事故の態様を合わせ考えれば、被告は、原告の腰痛症に配慮して、原告の配置転換を考え、これが原告に受け入れられないと、原告に対して重い物は持たないように注意するとともに、原告が自らの裁量で仕事の範囲を決めてその作業のみを行うことを許容し、被告灘店の精肉売場の従業員に対しても、原告には重量物を持たせないようにするよう指示して、原告の作業について重量物の運搬等の必要が生じた場合には他の従業員に協力させる態勢をとり、右協力が可能な人員も配置していたものと認められるから、被告は使用者として原告に対して負っている安全配慮義務を十分に尽くしていたものということができ、むしろ本件事故は、原告が共同作業を行っていたアルバイト学生が戻るのを待たず、また、食肉冷蔵庫から出るためだけであれば、他に方法がないわけではなかったのに、被告からも注意され、普段は自らも差し控えていた力作業に当たる総重量一二〇ないし一三〇キログラムのバッカを台車から引きずり降ろす作業を不用意に一人で行おうとした自らの過失によって発生したものといわざるを得ない。
 従って、被告には、本件事故によって原告が被った損害を賠償する義務はない。