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ID番号 04725
事件名 転任処分取消請求控訴事件
いわゆる事件名 川内市立川内南中学校事件
争点
事案概要  中学校に勤務していた教諭、事務職員に対する転任処分につき処分取消が訴えられた事例。
参照法条 教育基本法19条2項
教育基本法6条2項
教育基本法10条2項
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
裁判年月日 1989年3月20日
裁判所名 福岡高宮崎支
裁判形式 判決
事件番号 昭和60年 (行コ) 3 
裁判結果 棄却
出典 労働判例539号68頁
審級関係 一審/04102/鹿児島地/昭60. 3.22/昭和54年(行ウ)2号
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 (一) 前認定の事実、当審証人Aの証言、及び、弁論の全趣旨によると、被控訴人は、B中の混乱状況について同校長やC教頭から報告を受け、また、一部事情聴取をする等して右3認定の各事実を確認し、それらが組合活動及び交渉活動の程度を越えた逸脱行為であり、これが原因となって生じた校長及び教頭と分会員である教職員との対立、相互不信は抜き差しならぬものとなり学校の正常な管理運営は不可能な状態にあるものと判断したが、すでに一中学校における校長と教職員の対立という程度を越え、父兄ら地域住民と分会との対立にまで発展し、マスコミにも大きく報道され、県議会及び市議会でも取り上げられるなどして社会問題化し、登校拒否も辞さないという強硬な父兄もあり、正常な学校の管理運営はもとより、生徒をも巻き込み、公教育を阻害する深刻な状況に立ち至っているもので、右事態の正常化を図り公教育に対する信頼を回復するためには、混乱の原因を惹起した双方当事者の大幅な人事の刷新を行う以外にはないものと判断して、定期異動の時期をとらえて校長教頭らとともに控訴人らに対し本件転任処分をなしたことが認められる。
 〔中略〕
 同時期に転任した他の者と比べ、控訴人らが、同一校勤務年数の点を除き不当に不利益な転任地を決定されたとの事情はこれを認めるに足りる証拠はない。
 〔中略〕
 (一) 前記二2ないし4認定の事実によれば、B中における分会と校長の対立は既にD校長時代に始まっていたと推認されるが、E校長着任後控訴人ら分会員が同校長に対し交渉を求めた事項は、職員会議の性格(職員会議を事実上最高決議機関とする旨の要求)、主任制問題、管理職任用試験制度問題、一六ミリ映写機紛失問題等、一中学校の校長として解決を図るべき処分権限の範囲を越える問題など、地公法上の適法な交渉事項に含まれるとは思われないものが多数含まれ、それにもかかわらず、控訴人らは、教育現場における教師の意見を伝達あるいは上申してほしいことを求める目的態様のものとしてではなく、あくまで校長交渉と称し、予備交渉を求める校長の意思を無視して事実上応じざるを得ない状況のもとにこれを強要したこと、また、交渉以外の組合活動も不断の職場闘争となってあらわれたのみならず、嫌がらせとしか考えられない行為(三角錐闘争など)に出たり、職員会議の席上でも公然と校長に対する罵りの発言がなされていること、このため校長としては、これら執拗に繰り返される交渉、職場闘争の対応に追われ、落ち着いて学校経営に取り組む余裕がない状態であったこと、しかも分会員らはその要求を通すために事ある毎に校務分掌拒否を言明し、実際に一部を拒否しあるいは職員朝会をボイコットして校長に圧力を加えたりしていたこと、さらに交渉の態様においても、分会員らの意見に同調しない校長に対し、中学校の教職員としてはもとより一般人としても非常識といわざるを得ない悪口雑言、はては暴行、脅迫行為に及んだものであり、かかる行為が違法不当なものであり、また、いかに交渉当事者間の対立状況を考慮しても到底容認されない逸脱行為であることは明らかというべきである。そしてその結果、校長教頭と分会員である教職員との間の信頼関係はまったく失われ、校長として学校経営に対する自信を喪失させたのみならず、分会と地域住民との対立という事態に発展し、社会問題と化していたものである。
 したがって、被控訴人においてかかる状況を認識し、校長と分会との対立紛争を解決して学校教育の正常化を図り、併せてB中事件として社会問題化した混乱を収拾して公教育の信頼を回復するためには、校長を含む教職員の人事構成を大幅に刷新する以外に適切な方法がないと判断してなした本件転任処分には、その必要性、合理性を十分肯認することができ、教育基本法六条二項、一〇条二項等の規定による教育公務員についての強い身分保障に鑑みても、本件転任処分が裁量権の範囲を逸脱したもので、その濫用にあたるとは到底認めることができない。