全 情 報

ID番号 04742
事件名 懲戒処分無効確認等請求事件
いわゆる事件名 大日本エリオ事件
争点
事案概要  組合委員長が、休憩時間中、労基法改悪反対の署名活動をしたことにつき会社構内での政治活動を禁止する就業規則に反するとして譴責処分を受けたことに対し右懲戒処分無効確認を求めた事例。
参照法条 労働基準法34条
労働組合法7条1号
体系項目 休憩(民事) / 休憩の自由利用 / 休憩中の政治活動
裁判年月日 1989年4月13日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和62年 (ワ) 8357 
裁判結果 棄却
出典 労働判例538号6頁/労経速報1362号3頁
審級関係 控訴審/04918/大阪高/平 2. 6.21/平成1年(ネ)884号
評釈論文 新谷眞人・季刊労働法153号188~189頁1989年10月/中川克己・経営法曹98号5~15頁1991年11月
判決理由 〔休憩-休憩の自由利用-休憩中の政治活動〕
 (3) 右認定事実によれば、被告の原告に対する本件処分は、原告が休憩時間中に会社施設内で労働基準法改正に反対するための衆参両院議長に対する請願書の趣旨説明を含めて、これに対して署名活動をなしたことを理由にしているところ、原告の右行為はその性質上、就業規則第五条9号で禁止された「政治的活動」に該当し、原告はA副部長から就業規則違反であるとの指摘を受けても反省の意思がなかったことを併せ考慮すれば、原告の右行為は同規則第八二条との対比から少なくとも同規則第八一条4号に該当するものと認められる。しかも被告は、慣行に従い原告に対し告知聴問の機会を与える等慎重な手続きによって、同規則が規定している懲戒処分としては最も軽い譴責処分をなしたことが認められ、そうすると、被告の抗弁は理由がある。
 ところで原告は、会社施設を利用して、或いは構内での政治的活動を禁止している就業規則第五条9号は憲法一九条、二一条及び民法九〇条に違反し無効である旨主張している。なるほど憲法一九条、二一条で保障されている政治活動の自由は重要な市民的権利として私人間における公序を形成していることはいうまでもないが、他方、私人間においては私的自治の原則が支配し、会社の就業規則において合理的理由のもとに従業員の政治活動の自由を制約することは許容されるものと解される。そして、ここで禁止された政治的活動は不特定多数の従業員を対象にした署名運動等が予定されていると考えられるところ、これらの行為が会社施設を利用して或いは会社構内で行われたならば、労働者の労働義務の履行を妨げ、従業員間に不必要な緊張や反目を生じさせ、ときには従業員間の融和の崩壊や勤労意欲の減退を招き、ひいては会社の秩序維持や生産性の向上にまで支障をきたすおそれがあることに鑑みれば、会社が自己の有する施設管理権及び秩序維持権に基づきこれらの行為を禁止することは合理的理由による制約と解することができる。したがって、政治的活動を禁止している被告の就業規則第五条9号は有効であると解され、原告の右主張は採用できない。
 (4) もっとも、従業員の政治活動の自由が重要な市民的権利として尊重されるべきことに鑑みれば、形式的に同号に該当する政治的行為であっても実質的に会社内の秩序を乱すおそれのない特段の事情が認められるときには、右規定に違反するものではないと解するを相当とする。そこで再抗弁1を検討するに、(2)で認定した事実によれば、原告の本件署名活動は会社施設内において労働基準法改正に反対するための衆参両院議長に対する請願書の趣旨説明を含むという濃厚な政治活動であったうえ、単に従業員に署名を求めることを越えて「絶対に迷惑をかけない」等と説得に及んだものであり、さらに被告が預かった署名用紙には三名の署名がなされていたにすぎないが、他の用紙には約二〇名の署名がなされており、本件署名活動はその一環であったことが認められ、右事実を総合すれば、本件処分の対象になった原告の行為により相当程度会社内の秩序が乱されたものと推認され、実質的に会社内の秩序を乱すおそれのない右特段の事情があったとは到底いえない。
 〔中略〕
 前記のとおり会社の施設内においては会社の施設管理権、秩序維持権に服することが是認されねばならず、さらに右認定事実によれば、本件署名活動はその趣旨説明、説得を伴っていたことが認められる。そして、休憩時間中においては他の労働者が休憩時間を自由に利用する権利を有していることが尊重されなければならないから、これを妨げる行為を当然にはなしえないと解すべきである。そうすると、本件署名活動が上部団体の指令に基づきなされた組合活動であったとしても、右署名活動は、被告の施設内において、しかもその趣旨説明、説得を伴っていたことから、被告の施設管理権、秩序維持権を侵害したうえ、休憩中の他の従業員の自由に休憩する権利をも相当程度妨げたと推認され、これをもって正当な組合活動であったということは到底できない。