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ID番号 04755
事件名 雇用関係存在確認等請求控訴/附帯控訴事件
いわゆる事件名 国鉄松山電気区事件
争点
事案概要  組合が建物二階階段の通路に掲出した組合旗を区長が撤去したことにかかわって上司に対して暴行に及んだことを理由として国鉄職員が懲戒免職処分とされ、その効力を争った事例。
参照法条 日本国有鉄道法31条1項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 暴力・暴行・暴言
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
裁判年月日 1989年5月17日
裁判所名 高松高
裁判形式 判決
事件番号 昭和62年 (ネ) 11 
昭和62年 (ネ) 206 
裁判結果 棄却
出典 労働判例540号52頁
審級関係 一審/03807/松山地/昭61.12.17/昭和58年(ワ)324号
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 1 日本国有鉄道法三一条一項及び同項一号の規定する業務上の規程である控訴人の就業規則(〈証拠略〉)によると、懲戒処分の種類は免職、停職、減給、戒告の四つとされている。このうち具体的にどの処分を選択するかは、懲戒権者たる控訴人の総裁の裁量的判断に一応委ねられていると解するのが相当である。しかしながら、免職処分については、他の懲戒処分と異なり、被処分者の職員としての身分を失わせるという重大な結果を生じさせるものであるから、その裁量の範囲も無制限ではなく、処分の対象となった行為の動機、態様、結果、当該職員の行為前後の態度及び処分歴等その他諸般の事情に照らし、免職処分が当該行為との対比において甚だしく均衡を失し、社会通念上合理性を欠くと考えられる場合には、右免職処分は裁量の範囲を逸脱した解雇権の濫用として無効となるものというべきである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-暴力・暴行・暴言〕
 組合旗は組合の団結の象徴としての性格があり、勤労者の団結権が憲法上保障されていることに照らすとき、組合旗の掲出は使用者からもそれ相応の丁重な取扱いを受けるべき性質のものであるから、組合旗掲出の態様及びこれに関する従来の労働慣行等をも考慮のうえ、右組合旗の掲出を控訴人において禁止し、更にこれに違反するものにつき自らその撤去ができるか否かについては慎重な検討を要するものとしなければならない。
 前記認定の事実によると、組合旗の掲出が正当な組合活動の一つとして労働慣行により控訴人において承認されていたと言えるか否かはともかくとして、四国総局管内において少なくとも昭和五八年二月ころまでは組合旗の掲出が事実上黙認ないし放任されてきたことは紛れもない事実であるから、控訴人がなんらの制約なくして自由に右組合旗の撤去をなしうるものと解することは困難である。
 (3) そうすると、控訴人が前記認定の経緯によりAをして分会組合旗を撤去させたことは極めて異例の措置であったと言うことができるのであるから、たとえ組合が組合旗の掲出につき承認の手続を経ていなかったとしても、この一事により控訴人が施設管理権に基づき組合旗の撤去を強行したことは少なくとも穏当を欠く措置であったものと解さざるをえない。
 結局、被控訴人が控訴人による組合旗の撤去につき反発したことについては一義的にその当否を判断することはできず、また、前記認定の事実によると、控訴人主張のように被控訴人が控訴人の国労に対する申入れ又は警告を通じて掲出許可のない組合旗の撤去が求められていることを十分承知していたとか、昭和五八年一月か二月のAの注意によって組合旗の掲出が許されないことを承知していたとか、同年五月二日の組合旗返還を求めた際に組合旗撤去の理由を聞かされて承知していたとか言える事情はなかったものと認められる。
 そして、前記認定のとおり組合旗の掲出が組合の指令に基づいてなされてきた経緯に照らすと、国労愛媛支部の書記長であった被控訴人が組合旗を再度撤去されたことに反発し、Aに対し抗議の趣旨も込めて組合旗撤去の理由を問いただそうとしたことには、組合役員としてやむをえないところがあったとも言える。
 したがって、被控訴人の非違行為の情状を判断するについては右のような事情を無視することはできず、被控訴人が組合旗の撤去について抗議する趣旨で発問したことは、その方法の相当性を別として一概に非難することはできない。
 〔中略〕
 (四) 以上検討した本件暴行の動機、態様、結果、本件暴行前後の被控訴人の態度及び処分歴等に照らすと、被控訴人の控訴人職員としての身分を失わせる本件処分は、その対象となった行為との対比において甚だしく均衡を失し、社会通念上合理性を欠くものと言わざるをえない。