全 情 報

ID番号 04766
事件名 解雇予告無効仮処分申請事件
いわゆる事件名 千代田化工建設事件
争点
事案概要  会社が経営規模の縮小を余儀なくされ、その対策として溶接工に対して子会社への移籍を打ち出したところ、二度とも賃金の大幅な減額等を理由に拒否され、配置転換もできないとして解雇に及んだ事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
労働基準法2章
民法625条1項
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
配転・出向・転籍・派遣 / 転籍
裁判年月日 1989年5月30日
裁判所名 横浜地
裁判形式 判決
事件番号 昭和63年 (ヨ) 465 
裁判結果 一部認容,一部却下(控訴)
出典 時報1320号153頁/労働判例540号22頁/労経速報1363号5頁
審級関係
評釈論文 新谷眞人・季刊労働法153号198~199頁1989年10月/長谷川誠・平成元年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊735〕404~405頁1990年10月/堤浩一郎・労働法律旬報1221号38~41頁1989年8月10日/毛塚勝利・判例評論374〔判例時報1337〕211~216頁1990年4月1日
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 右就業規則二二条一項七号(労働協約七六条八号)による解雇は、「会社が経営規模の縮小を余儀なくされ」たことにつき従業員にその責任があるか否かに関係なく従業員を解雇し得るとするものであるところから、その要件は厳格に解しなければならないものというべく、そして、本件においては債務者会社が「経営規模の縮小を余儀なくされ」たことにつき、債権者には何らの責任がないものであり、また、就業規則二二条一項七号にいう「他の職務への配置転換その他の方法によっても雇用を続行できないとき」解雇し得るとは、「経営規模の縮小」により従業員を解雇するに当たっては、債務者会社としては、これを回避するための最大限の努力をしなければならないものと規定したものと解するを相当とし、債務者会社としてかかる努力を怠るときは右解雇をなし得ないものと解するを相当とする。
 (二) 前認定の事実によれば、債務者会社においては川崎工場を分離・子会社化し、これをA会社としなければならなかったという「経営規模の縮小を余儀なくされ」ていたこと、債権者に関してみれば、労働条件の低下(主として賃金の三〇パーセント減)はあったものの、A会社への移籍、次いでB会社への出向、移籍等債務者会社としては債権者の解雇を避けるための相応の努力をしていたことが、一応認められるところであるが、同時に債務者会社の企図した経営規模の縮小=川崎工場の分離・子会社化=A会社等への移籍については、これを最後まで拒否し続けたのは債権者ただ一人だけで、他は若干名の退職者等を除いて右移籍に応じたことにより、債務者会社としては殆んどその目的を達し得たものということができる。
 そうだとすると、前記就業規則所定の解雇要件は右により解消したものといわざるを得ず、それでもなお債権者を解雇するということは、右要件を欠く解雇となるものと認めるを相当とする。〔配転・出向・転籍-転籍〕
 (三) そもそも、移籍についてはそれが雇用契約の解除と新たな雇用契約の締結であるところから、新契約が従業員にとって有利か不利かにかかわらず、当該従業員の同意(承諾)がなければこれをなし得ず、使用者が一方的になし得るものでないことは債務者も自認しているとおりである。
 そうだとすると、移籍に同意せず、これを拒否することは当該従業員の自由であって、このことを理由として当該従業員を不利益に扱うことは許されないものというべきである。まして、移籍による新契約の内容が旧契約に比し、その賃金が三〇パーセントも減少するということであれば、なおさらというべきである。
 また、この移籍を組合が了承しているということは、移籍が右のような性質で個別的労働関係の問題、即ち雇用契約の解消と新契約の締結であるところから、それ自体には何らの影響を及ぼすものではなく、せいぜい移籍拒否が組合の決定に従わなかったということでの統制違反の問題となるにすぎないものというべきである。