全 情 報

ID番号 04788
事件名 従業員地位確認等請求事件
いわゆる事件名 武田薬品工業事件
争点
事案概要  製薬会社の中央研究所の開発研究補助業務から営業課への配転命令を拒否したとして懲戒解雇された者がその効力を争った事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界
裁判年月日 1989年7月13日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和51年 (ワ) 1610 
裁判結果 棄却
出典 労働判例544号25頁/労経速報1370号8頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 原告は、被告においては原告が本件配転命令を拒否した後、原告に代替するテクニカル・サービスマンの配転をせず、その後、営業三課に配属されたテクニカル・サービス経験者も中小加工メーカー向けのテクニカル・サービス業務に就かず、結局、同課に右テクニカル・サービスマンが置かれたことはないから、同課に中小業者向けのテクニカル・サービスマンを設ける業務上の必要性はなかったと主張する。
 しかし、(証拠略)によると、営業三課は、原告が本件配転命令に従わなかった後、代替員の充員を要請したが容れられず一名欠員のまま経過したため、在籍の営業販売員にテクニカル・サービス教育を施し、当初は三人態勢、後に全員態勢で中小業者に対するテクニカル・サービスを行わしめたこと、同課に配属されたテクニカル・サービス経験者は営業販売員に欠員を生じたための補充であり、又、その頃、同課は全員態勢で中小業者に対するテクニカル・サービスを行っていたことが認められる。
 そうすると、営業三課において中小業者に対するテクニカル・サービスマン設置の必要性は原告の代替員を直ちに配転しなければならないほど逼迫したものではなかったとしても、同課が本件配転命令当時、業績上昇のため右テクニカル・サービスマンを必要とし、その要員を求めていた事情は充分窺い知れるのであって、原告の主張は採用できない。
 (3) 以上の認定、説示によると、本件配転命令の業務上の必要性が肯認される。
 〔中略〕
 (4) 本件配転の合理性
 【1】 以上の認定、説示によると、原告を営業三課のテクニカル・サービスマンに配転することは同課の充員要請及び製剤研究所の中高卒高年次研究補助者に対する人事方針に合致するものであり、その人選手続は相当であったと認められる。
 原告は、製剤研究所からの配転が止むを得ないのならローテイション人事を行うべきであったと主張するが、(3)認定の事実に照らし採用し難い。
 【2】 配転の業務上の必要性、合理性とは、当該配転が余人をもっては代え難いというほど高度な必然性を言うものではない。
 原告が本件配転の結果、習熟した医薬品開発の補助業務から新しく食品添加物のテクニカル・サービス業務に異動することに不利益、苦痛は絶無であるとは言えないが、本件配転は原告の学歴、従来の職歴に矛盾するものではなく、他方、原告は本件配転によって昇進の途さえ開かれるのであるから、本件配転は原告に対する不利益処遇とは断じ難い(原告が本件配転によって蒙る私生活上の不利益、損害は具体的立証がない)。そして、被告は従業員の人事について広汎な裁量権を有しているのであるから本件配転命令は業務上の必要性、合理性があると言うべきである。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
 原告は、本件配転命令及び4記載のAに対する出向内示、Bに対する配転内示、その他の者に対する人事異動は何れも業務上の必要性、合理性がなく、前記Rマンの新設及び製剤研究所の再編成に伴うC、Bらの配転がD労災闘争の分断、壊滅を目的としたのと等しく原告らD労災闘争の活動家、支援者に対する報復人事であると主張する。
 確かに、被告が対策協によって社外にまで広がったD労災闘争を嫌悪していたであろうことは容易に推定できるし、被告職制が対策協やD労災闘争に係わる部下に対し様々な牽制を行ったことも事実であろう。しかし、被告は同四六年以降低迷していた業績回復のため営業部門の充実、研究部門の合理化を図ってきており、Rマンの新設、製剤研究所の再編成はその一施策として行われ、これに伴う配転はD労災闘争の支持者、支援者以外にも広く及んでおり、D労災闘争対策とは到底認め難いこと、被告においては右の全社的な方針に基づき年間を通じて多くの人事異動が行われ、同四八年一一月期には原告主張の右異動の他にも相当数の異動が行われたこと、本件配転命令については、前記のとおり、業務上の必要性、合理性が首肯できるところであり、Aに対する出向、Bに対する配転は何れも発令に至っておらず、4記載のその他の者に対する人事異動が同人らに格別の不利益をもたらしたと認めるべき証拠はないこと、原告主張のD労災闘争の活動家、支持者らに対して行われた一連の人事異動が同時期に行われた他の人事異動に比べ格別の不利益処遇であると認めるべき証拠はないこと、原告においても一旦は本件配転が松本労災闘争と無関係であることを認め、本件配転を承諾していたこと等の事実に照らすと、被告がD労災闘争とこれに参加した原告らを嫌悪していたこと、本件配転命令を含む4記載の人事異動がD労災闘争の終熄後日ならずして行われたことを考慮しても本件配転命令その他の右人事異動が原告らD労災闘争の活動家、支持者らに対する報復人事であると認めることは困難である。
 従って、本件配転命令が権利の濫用により無効であるとする原告の主張は採用できない。