全 情 報

ID番号 04789
事件名 雇用関係存在確認等請求事件
いわゆる事件名 佐世保重工業事件
争点
事案概要  造船不況下での余剰人員対策として行なわれた出向命令を拒否したとして普通解雇された造船会社の組立工がその効力を争った事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
労働組合法16条
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 出向命令権の根拠
解雇(民事) / 解雇事由 / 業務命令違反
解雇(民事) / 解雇手続 / 同意・協議条項
裁判年月日 1989年7月17日
裁判所名 長崎地佐世保支
裁判形式 判決
事件番号 昭和59年 (ワ) 191 
裁判結果 棄却
出典 労働判例543号29頁/労経速報1365号22頁
審級関係
評釈論文 新谷真人・季刊労働法154号176~177頁1990年1月/石嵜信憲・経営法曹103号45~53頁1993年10月
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-出向命令権の根拠〕
 (1) 昭和五八年二月二日運輸大臣がした諮問に対し、海運造船合理化審議会は同年三月二三日、我が国造船業は一連の不況対策と海運市況の好転等が相まって先の不況から徐々に回復の兆しをみせていたが、その後第二次石油危機を契機とする世界経済の停滞、省エネルギーの一層の進展、第三造船諸国の台頭により、昭和五六年度後半以降造船市況は急速に冷え込み、再び受注競争の激化、経営の不安定化等の事態に陥ることが強く懸念される状況となっているとし、我が国の船舶建造量は下降し、昭和六〇年に現有設備能力の五〇パーセントの水準まで落込み、以後漸次回復に向かうことが予測されるとの意見を答申した。
 (2) 同年四月一二日運輸省船舶局は、総トン数一万トン以上の船舶を建造しうる設備を有する企業に対し、操業度を昭和五六年度を基準として昭和五八年度は平均七四パーセント、昭和五九年度は平均六八パーセントに調整するよう勧告し、勧告を受けた者は各年度の操業計画書を提出し、実施状況の確認のため生産状況報告書等を提出することを要請し、被告会社に対しても右勧告及び要請がなされた。
 (3) 被告会社における原告の勤務成績は、昭和五七年一一月現在及び昭和五八年二月現在において、業務達成度、改善工夫、理解・判断・表現・折衝、職場規律、協働性・積極性・責任感という観察項目のいずれについても五段階中最下位の評定ランクの評価を受けた。
 (4) 原告が所属していた造船部船殻課においては、従業員七四八名の約一七パーセントにあたる一二九名が出向対象者となった。
 右の各事実及び前記認定のとおり、本件出向計画は昭和五七年一二月一日現在における被告会社の現有直接生産人員三四三八名の約一四パーセントにあたる四八四名を二年間に限り出向させることを内容とするものであることに照らすと、被告会社が本件出向計画を策定、実施し、原告に対して出向命令を発令した経過に正当性を欠くと認められる点はないというべきである。
〔解雇-解雇事由-業務命令違反〕
 右の各事実を総合して考えると、原告の母Aの昭和五八年五月当時における健康状態は、右(6)の(イ)の出向先への移動ができない場合にはあたらず、また同(ロ)の出向先で危険な状態が予測されるという程の状況にあったものとは認め難く、右のいずれの基準にも該当しなかったものと認められる。
 そして右認定のとおり、原告には福岡県芦屋町に居住する実姉があり、昭和五六年中には埼玉県入間市の当時の住居地から赴いてきて、数か月にわたり原告の肩書住所に滞在してAの看護に従事したことがあること、出向期間は二年間であること、被告会社は出向者の住居として公営住宅などの斡旋もしており、また出向手当及び別居手当も支給されることとなっていたことに照らすと、原告としては、実姉に母Aの世話のために暫時の滞在を要請して、まず単身出向先に赴き、訴外B株式会社の社員寮が母Aの住居として適当でない場合には、他所に適当な住居を早急に求めたうえ同女を帯同するというような方策や福岡県芦屋町の、実姉の世話の行き届く範囲内にAの住居を求めるというような方策等を検討することが、原告に対しても信義則上要請されるところというべきであるが、原告が昭和五八年五月当時これらの方策を検討したことを示す資料もないことを合わせ考えると原告が被告会社の出向命令を拒否したことに正当な理由があったとの原告の主張は、にわかに肯認し難い。
 したがって被告会社が原告に対してした解雇の意思表示が解雇権の濫用にあたり無効であるとの原告の再抗弁の1の主張は、採用することができない。
〔解雇-解雇手続-同意・協議条項〕
 労働協約一一四条四号、一一五条一号(3)に、「やむを得ない事業上の都合による組合員の解雇の場合の員数、基準、条件」を労使協議会の付議事項とする旨の規定があることは、当事者間に争いがない。
 原告は、被告会社の原告に対する解雇の意思表示は、やむを得ない事業上の都合による解雇であるから、右規定の適用があると主張するけれども、右の労働協約の規定は、その文言に照らし、かつ労働協約一一四条八号と対比すると、整理解雇の場合における整理人員数、整理基準及び整理の条件を労使協議会に付議すべきことを規定したもので、労働協約四五条六号による解雇には適用されないと解するのが相当であり、またかりに右労働協約一一四条四号、一一五条一号(3)は、やむを得ない事業上の都合による解雇であれば、たとえ被解雇者が一名の場合であっても、解雇基準及び解雇の条件を労使協議会の付議事項とするという趣旨の規定であると解したとしても、(証拠略)によれば、被告会社は昭和五八年五月二五日被告会社及び労働組合の委員各五名をもって構成する労務委員会に原告の解雇の理由等を付議したことが認められ、実質的にみて、原告の解雇が労働組合との協議に付議されたことが認められるから、被告会社が原告に対してした解雇の意思表示が、その手続に重大な瑕疵があるとの原告の主張は採用することができない。