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ID番号 04792
事件名 労働契約存在確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 国鉄職員事件
争点
事案概要  旧国鉄の職員が国鉄総裁の兼職承認を受けないまま市町村議会議員に立候補し当選して公選法の規定により失職したものとして取り扱われたことにつき、国鉄職員としての地位確認を求めた事例。
参照法条 公職選挙法103条1項
日本国有鉄道法26条2項
体系項目 退職 / 失職
裁判年月日 1989年7月20日
裁判所名 福岡高
裁判形式 判決
事件番号 昭和63年 (ネ) 165 
裁判結果 棄却
出典 労働民例集40巻4・5号447頁/時報1331号140頁/労働判例545号6頁
審級関係 一審/03929/福岡地小倉支/昭63. 2.25/昭和58年(ワ)639号
評釈論文
判決理由 〔退職-失職〕
 国鉄総裁が国鉄職員と市町村議会議員との兼職を承認するか否かを判断するにあたっては、兼職禁止の原則を定めた国鉄法二六条二項の前記趣旨に鑑み、単に国鉄の業務に与える個別的な影響のほか、国鉄の財政事情、国鉄職員の過不足の状況、その他国鉄の経営状態等諸般の事情を広く斟酌して、その合理的な裁量によって決めることができると解するのが相当であり、国鉄総裁は業務遂行に著しい支障がない限り兼職承認をすべきであるとの控訴人らの主張は、その根拠を欠き、採用することができないものである。これを本件についてみると、前認定のような、国鉄が昭和五七年一一月一日以降国鉄職員の市町村議会議員との兼職を当面一律に承認しないこととしたのは、既に経営が破綻してしまった国鉄の再建のためには、国鉄職員にも従前以上に職務に専念すべきことが強く要請されていたところであり、そのために兼職の一律禁止等の緊急措置を採ることを余儀なくされたからであって、国鉄の置かれた当時の極めて厳しい状況からすると、右の措置は、国鉄総裁の合理的な裁量権の行使として、やむを得ないものであったということができる。そうすると、右措置により国鉄法二六条二項の定める兼職承認制を崩壊させるとの控訴人らの非難は全く当たらないというべきである。
 〔中略〕
 「また、国鉄総裁が国鉄職員の市町村議会議員との兼職を承認すべきか否かを判断するにあたっては、兼職によって生ずる個別的な業務の支障の有無、程度に限らず、国鉄の財政事情等の諸般の事情を考慮して裁量権を合理的に行使してこれを決することができるものであること、遅くとも昭和五七年一一月以降国鉄が直面していた状況の下においては、国鉄総裁が一律に市町村議会議員との兼職を承認しないとの方針を決めたことは、合理的な措置というべきであることは、前判示のとおりであるから、右方針に沿って控訴人らに対し前判示のように門司鉄道管理局長名によって控訴人らが当選の告知を受ける前に市町村議会議員との兼職を承認しない旨を通知し、いずれも承認しなかったことは、前認定の本件の事情の下においては、合理的な裁量権の行使とみるべきものであって、その範囲を越えているものとは到底認められないところである。