全 情 報

ID番号 04842
事件名 仮処分異議申立事件
いわゆる事件名 西日本鉄道事件
争点
事案概要  電車運転士に対する脱靴検査拒否を理由とする懲戒解雇につき、乗務員に対する所持品検査には合理性があるとして、右解雇が有効とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 所持品検査
裁判年月日 1961年10月24日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和36年 (モ) 336 
裁判結果 認容
出典 労働民例集12巻5号935頁
審級関係
評釈論文 小西国友・ジュリスト262号108頁
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-所持品検査〕
 前記の如く申請人に対する所持品検査は被申請人会社就業規則第八条の規定に基くものであるところ、申請人はこの就業規則の規定は、憲法第十一条、第十二条、第十三条、第三十一条、第三十五条の精神に反し、公序良俗に反するものであるから無効の規定であるとし又右就業規則の規定による脱靴並びに靴の検査は右憲法各条によつて保障された基本的人権を侵害するものであると主張するので、この点について判断する。
 元来、右各条を含む憲法第三章国民の権利及び義務に関する各規定における国民の憲法上の権利は、それ自体私人間のものとしての性質をもつもの(例えば使用者に対する関係で成立する勤労者の団結権等)は別として、一般的には国家に対する人民の権利としての性質をもつものであるから私人間には当然には妥当しない。したがつてこれらの憲法上の自由ないし権利が就業規則又は私人間の自由意思による契約等によつて制限されることも可能である。但し、憲法がこれらの権利を基本的人権として承認したことは、それらの権利が不当に侵害されないことをもつて国家の公の秩序を構成することを意味するものと考えられるから、何らの合理的な理由なしに不当にこれらの自由ないし権利を侵害した場合には、いわゆる公序良俗違反の問題が生ずることがあり得ると考えられる。
 右就業規則の規定に基く所持品検査の目的は、証人Aの証言によれば、被申請人会社の電車及び自動車の乗務員による乗車賃等の不正隠匿並びに領得行為を防止ないし摘発するにあることが明らかである。ところで、被申請人会社の如く電車、自動車等による陸上運輸業を営むものにとつては乗車賃がその収入の根幹をなすものであることは公知の事実であるし、又証人Bの証言により成立の認められる疏乙第五号証の一ないし十一によると、昭和二十六年度より同三十四年度までの間に乗車賃等の不正隠匿並びに領得行為により懲戒解雇処分を受けたものがその間の懲戒解雇処分を受けたものの合計四百七名の過半数を占める多数にのぼり、しかも右不正行為件数の約半数が所持品検査の結果摘発されていること、及び乗車賃等の隠匿場所についても着衣、靴等の中に隠匿したものが、相当数にのぼつていることが認められる。このような被申請人会社の業態並びに所持品検査の果している効果からみて乗務員に対する所持品検査は被申請人会社にとつて必要欠くべからざるものであることが窺知できる。しかも、前記認定の如き経緯によりC労組北九州地区支部によつて確認された検査方法による前記所持品検査は必ずしも不当に申請人の自由ないし権利を侵害するものとはいえない。申請人の右主張はいずれも採用できない。なお、申請人は、右就業規則第八条に規定する所持品検査とは、検査を受けるものに脱靴させ、靴の中まで検査することを含まない旨主張する。しかし、右規定にいう「所持品」とは、前記の如き所持品検査の目的から考えると、検査を受けるものの占有に属するすべての物件を指称するものと解されるから申請人の右主張は採用できない。ただ、所持品検査に当り検査を受けるものの占有するすべての物件を検査することによつて、そのものの自由ないし権利を不当に侵害する場合が生じないとも限らない。しかしこのような点についても前段の説明で明らかなとおり申請人に対する前記認定の方法による脱靴並びに靴の中の検査は必ずしも不当に申請人の自由ないし権利を侵害するものではない。そうすると、申請人は、前記所持品検査に当り、脱靴して靴の中まで検査を受けなければならない義務があつたものといわなければならず、これを拒否した申請人の前記行為は明らかに就業規則第八条の規定に違反したものである。