全 情 報

ID番号 04893
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 日立製作所事件
争点
事案概要  企業整備を理由として整理解雇された者が右解雇を不当労働行為に当たる等として地位保全の仮処分を申請した事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
労働基準法2章
労働組合法16条
労働組合法7条1号
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
解雇(民事) / 整理解雇 / 協議説得義務
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
裁判年月日 1950年8月17日
裁判所名 福岡地小倉支
裁判形式 決定
事件番号 昭和25年 (ヨ) 66 
裁判結果 却下
出典 労働民例集1巻4号589頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
 昭和二十五年四月五日Y本社に対してはY傘下組合の総連合から各工場に対しては当該工場を単位とする組合から夫々賃上の要求があつたのに対し、会社は組合の指定する囘答期を延ばした上総連合に対し五月八日若松工場組合に対し同月九日夫々賃上要求を拒否すると同時に、Y全社としては五千五百五十五名若松工場としては全社五千五百五十五名の一部として七十二名の経営合理化に因る減員を発表し、若松工場分は同月二十四日七十二名中退職希望者二名を除き別紙記載の者を含む七十名に対し、解雇の通告をしたのであつて、一見賃上要求を封殺する為の威嚇解雇であるかの様な感がないでもないが、しかし会社としては昭和二十四年暮から既に情勢上経営合理化の必要を認め明けて昭和二十五年二、三月に亘つて各工場毎に原価査察を行い検討の結果七千餘人の剰員があり、一部解雇は止むを得ないと云う結論を得爾来鋭意実施に関する具体案を練りつつあつた折柄組合に於ては早くも人員整理のあるべきことを察知し、その機先を制して之を阻止し様と云う意図の下に賃上の要求をしたところから、会社に於ては組合に対する囘答の必要上整理具体案の策定を急ぎ、前示の様に組合に対する囘答と整理の発表を為すに至つたものであると云う事情が認められ又少くとも資本主義経済機構の下に於ては労動力と共に生産要素であるところの資本に対する利益配当が終戦後全然行われていないと云うこと、前期決算に於て三千数百万円、前々期に於て六千数百万円の利益を挙げたことになつているものの今や資本金二十二億円に対しては配当するに足らないのみならず、右の利益と称するものも実は真の営業利益ではなくて固定資産の評価益を計上して体裁を繕らうたものであること、緊縮政策に因る一般産業界の不振従て受註の減少、金詰り資金難、同業者間の競争の激化、従て有利な受註の困難、補給金の廃止に伴う原材料の騰貴とそれにも拘らず販売価格の値上難、更に外国業者の立直りに因る輸出向受註の減少等頗る悪材料に富んで居り、是等諸般の事情等を綜合すれば整理の必要なことは一応肯定されるから整理の必要がないに拘らず、賃上要求を封殺する為に威嚇的に解雇したものであるとは解し難く会社は団体交渉に於て整理の必要性につき組合に説明すべく努めたけれども組合は数次の会見に於て徒らに怒号喧騒して之を聴こうとしなかつたので遂に解雇通告を発するに至つたものであるから、組合の納得なしの一方的解雇であると云うことは必ずしも当らない。旁々之を以て不当労働行為であるとか、解雇権の濫用であるとか、或は労働基準法第二条に反したものであるとかは云い得ない。〔解雇-整理解雇-協議説得義務〕
 会社は労働協約の破棄通告後も会社の為した分掌変更に関する連絡に対する組合の異議申立により再考協議の上その結果を組合に通告した事例があるから、之は慣習法として労働協約の条項が遵守されたものであると云う組合の主張があり右の一事例があつたことは認められるにしても、此の一事のみで一般に拘束力を持つ慣習法が成立したと云い得ないのは勿論、会社と組合とのみを拘束する特別慣習法が成立したとも見られないから本件の解雇が組合との協議を経ないものであるとしてもその為に無効であるとは云い得ない。〔解雇-整理解雇-整理解雇基準〕
 整理の必要のあることについては既に説明した通りであるが、此の整理の必要であると云うことは就業規則に己むを得ない事業上の都合に依るときと云うに該当する。そして反対の定がないから斯様に整理の必要上解雇する場合には解雇基準を定むることを要するものではない。会社は解雇すべきものを自由に選定することが出来る、例えば抽籖の方法によつても敢て不可はない譯である。しかし経営合理化の為に整理するのであるから此の目的に副つた人選をすべきであることは常識上当然であるが、それは法律上の問題ではない。只自由に選定が出来るとは云うものの例えば組合の正当な行為をしたことを理由として或る者を選定したと云う様に不当労働行為に関する労働組合法の規定に該当する場合には不当労働行為としてその者に対する解雇が無効であることは勿論であるから抽籖によることを適当としない場合、例えば従業員の能率其の他考課の上で差等があると云う様な場合には適当な基準を定めて此の基準に該当する者を選定すると云うことは適宜な方法である。
 然るに会社は概ね妥当と思われる解雇基準を定め、且つ組合幹部の認定に係る作業能力をも含めた平素の考課に照し且家庭の事情をも勘案して慎重に選定を行つたことが認められる、殊に申請人A、B、C、D、E、Fが元若松工場組合の役員であつたこと申請人G、H、I、J、Kが本件解雇通告当時右組合の役員であつたことは認められるけれども、右は何れも会社の定めた解雇基準の一乃至数項に該当し就中業務成績低く経営合理化の為の整理に当つては解雇対象者として指名されるに相応しいものであると見られ、特に元役員として組合活動が熱心であつたとか、現に組合役員として組合活動が熱心であるとか云うことを理由として解雇したものであると認むべき資料はない。尤もGは組合事務専従者であつて会社から給与を受けて居るものでないから仮令以前の業務成績が不良であつたとしても之を解雇する理由に乏しい様な感がないでもないが、組合事務専従と云うことは永久的なものでなく執行委員長と組合事務専従と云うことは不可分な実情にあり、一方委員長の改選期も間近であつて職場復帰が予想されるのと、将来職場に復帰したとしても就業規則の規定上単に業務成績不良と云うことでは解雇することが出来ない様な事情にあること等を彼此綜合すれば、同人を解雇すると云うことも一応納得の行くことであつて、特に執行委員長として組合活動に熱心であると云うことを狙つたものであるとは見られない。