全 情 報

ID番号 04895
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 新大同製鋼事件
争点
事案概要  組合幹部が争議に際して組合員に製品の出荷阻止をあおり、また自らその行為に参加したことを理由として懲戒解雇された事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
労働組合法7条1号
労働組合法8条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
裁判年月日 1950年8月21日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 決定
事件番号 昭和25年 (ヨ) 296 
裁判結果 一部認容・却下
出典 労働民例集1巻4号630頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 (二) 以上のような状況で、星崎分会等の組合員は被申請人会社に対し度はずれて越軌的な争議行為をなし会社に対し莫大な損害を与えたので、被申請人会社は右争議解決後、組合指導者の責任を問うこととなり、昭和二十五年七月三日申請人A以下十六名を懲戒解雇処分に付したのである。即ち(1)申請人Aは星崎分会の常任委員たる外連合会の執行委員長として組合における最高責任者の地位にあり、又本件争議開始後は中央闘争委員長に就任し星崎分会に対し前記出荷阻止指令を発し、同分会をして前叙のような違法な争議行為をなさしめたのである。尤も右指令の内容はその使用せられた文字に従えば単なる「出荷停止」であり必ずしも積極的行為による出荷妨害を命令したものでなかつたが、申請人自身右のような出荷妨害の結果の発生を予期しこれを是認していたことは、同申請人が六月十六日前示争議行為のまつ最中星崎工場第二工場における全員大会に臨み、組合員の行つている出荷妨害行為は正当なる争議行為である旨演説し組合員をげき励した事実によつても窺い得るのであつて、申請人は右結果の発生について責任を負うことを免れないのである。(2)申請人Bは星崎分会の副委員長であり全金属労組愛岐支部長を兼ね、なお、現在愛知県地方労働委員会の委員たる要職につき労働組合の健全なる運営と発展に挺身すべき指導的地位にあるに拘らず、前記のような違法な争議行為が行われているのを知りながらこれを阻止しようとせず、却つて六月十六日午前二時頃前掲C工業の従業員が組合員によつて引き下ろされた線材を再びトラツクに積載しようとした際、線材の輪に両脚を跨ぎ入れその積込作業を執ように邪魔して出荷妨害を積極的に援助していた事実を認め得るのであつて、同申請人も亦本件争議行為が適法な争議の限界を逸脱したことにつきその責任を囘避し得ないのである。(3)申請人Dは連合会の教宣部長であり、六月十六日星崎工場における出荷妨害事件の際分会員を指揮してバリケードの構築スクラム要員の編成をなし、又南門に集つた分会員に対して出荷妨害は合法行為なりと強調してこれをせん動し、なお会社幹部が開門せんとするや門を背にしてこれを拒否し開門せしめなかつた。(4)申請人Eは星崎分会の組織部長であつて連合会の中央闘争委員を兼ねるものであるが、六月十日の出荷妨害に際し南門において分会員の指揮に当りスクラムをもつてトラツクを押し返した。又運転台のステツプに飛び乗つて運転手を脅迫し、車輪の前に石塊、鉄材、木材等を押し込み、なお一台のトラツクが方向転換をなすや運転手に対し「殺すぞ」と怒号し数名の組合員を指揮してこれに飛び乗り積載してあつた荷物を投げ落した。(5)申請人Fは星崎分会の教宣部長であつて連合会の中央闘争委員の地位にあるが、六月十日の出荷妨害の際工場南門に集合した組合員に対し線材工場より来るトラツクをスクラムをもつて妨害すべきことを命じ、なお同日より同月十六日に至る間つねに組合員に対し出荷妨害を指令し、げき励していた。(6)申請人Gは星崎分会の書記長であり、六月十日工場東門において所属警備員に対し門を閉ずべきことを命じこれを制止せんとしたH総務課長に対し実力をもつて抵抗した。又トラツクが出門しようとするやその前に坐り込み運転不能にした外、東門附近の道路上に石材、木材等の障がい物を横たえ出荷妨害をした。(7)申請人Iは星崎分会の常任委員たる外連合会組織部長の地位にあるが、六月十日午前十一時頃工場南門において分会員を指揮しスクラムを組んでトラツクを押し返した。(8)申請人Jは星崎分会の青婦対策部長であり、六月十日工場南門において分会員を指揮しスクラムをもつてトラツクを押し返し、又トラツクが方向転換して東方に向つた際車輪の前に石材、木材等を押し込み運転を不能にした。なお今次争議中、青年行動隊長として隊員を指揮し工場各門の閉鎖及び障がい物の設置に活躍した。(9)申請人Kは星崎分会の常任委員であり、六月十日H総務課長が出荷のため工場の門を開扉せんとするや門を背にして妨害し、又トラツクの車輪の前に石材、木材、ドラム鑵等を押し込み運転不能にした。(10)申請人Mは星崎分会員であるが、六月十日分会員の先頭にたつてスクラムを組みトラツクの進行を妨害し、なお車輪の前に障がい物を投げ込んだ。(11)申請人Nは星崎分会の常任委員であり、六月十日H総務課長が出荷のため南門を開こうとするやこれを妨害し、又南門附近でトラツクの車輪の前に障がい物を投げ込んだ。(12)申請人Oは連合会の調査部長であるが、六月十日工場南門附近でトラツクの運行妨害のためバリケードの構築及びスクラム要員の編成等を指揮した。又六月十五日夜は組合員に対し出荷妨害行為の正当性を説示してこれをせん動した。(13)申請人Pは被申請人会社大江工場分会の闘争委員であり、六月十日星崎工場南門においてH総務課長が開門せんとする際これを阻止し抵抗した。(14)申請人Qは右大江工場分会の執行委員であり、六月十五日星崎工場東門においてトラツク出門の際その前に坐り込み幾度退去を命ぜられても退去せずその出門を不可能ならしめた。(15)申請人Rは星崎分会常任委員の外連合会の書記長を兼ね、六月十日、十四日及び十六日の三日にわたり星崎工場内の各所において分会員を指揮して出荷妨害に従事せしめた。(16)申請人Sは連合会の中央闘争委員であるが、星崎工場出荷妨害事件の際常に分会員を指揮してトラツクの前に横臥する等の方法によつてその運行を妨害した。(なお同申請人は平素から無断で職場を離れ就業せぬことが多く、上長に注意せられても反抗し、四月十六日以後は全く不就業の状態であつた)。
 しかして敍上のような各申請人の行為は、被申請人会社の従業員たる地位にもとりその職責をじゆうりんするものであつて、会社の従業員就業規則に照し、その責任を追及せられても止むを得ぬところであり、被申請人会社が申請人等に対する懲戒処分として解雇の処置に出でたこともあながち過酷と評し得ず、これを妥当として容認せねばならない。