全 情 報

ID番号 04900
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 渡辺工業事件
争点
事案概要  労働者を代表する組合が会社が労働者を就労させず賃金の支払を受け得ず生活の困窮を招くおそれがあるとして賃金仮払の仮処分を申請した事例。
参照法条 民法623条1項
労働基準法2章
労働基準法3章
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 就労拒否(業務命令拒否)と賃金請求権
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 就労請求権・就労妨害禁止
裁判年月日 1950年10月18日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 決定
事件番号 昭和25年 (ヨ) 466 
裁判結果 却下
出典 労働民例集1巻追号1294頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金請求権の発生-就労拒否(業務命令拒否)と賃金請求権〕
 (賃金請求について)本件仮処分申請中賃金の支払を求める部分については、右申請はいつたい何時からの賃金の支払を請求するものであるかはその申請書の記載自体からは明白でない。
 しかし当庁昭和二十五年(ヨ)第二八五号及び同第三四八号各仮処分事件の記録によると、被申請人会社は昭和二十五年四月分までの賃金については既に支払ずみであるし、又同年五月及び六月分の賃金については被申請人会社の各従業員から当裁判所に対し賃金支払の仮処分を申請し既にその決定があつたのであり、なお同年六月二十四日より申請人分会は被申請人会社の経営権を排除していわゆる生産管理に入り、同年九月二十三日まで争議状態を続けたため該期間の賃金については被申請人会社に対しその支払を請求し得ない事情にあること明かであるから、申請人の本件仮処分申請は同年九月二十四日以降の賃金について毎月支払期日の到来の都度その支払を要求するものと解するを相当としよう。ところで前記仮処分申請事件の記録によれば、被申請人会社における従業員に対する賃金の支払期日は、毎月二十七日に前月二十一日より当月二十日までの一ケ月分の賃金を支払う定めであることが窺い得られるから申請人の支払を要求する昭和二十五年九月二十四日以降の賃金に関しては、現在未だその期限が到来せざるか(同日以後本件決定の日までの分)又は賃金債権として未だ成立しおらざる(本件決定の日以後の分)ものといわねばならない。而してかかる期限未到来の債権又は将来成立すべき債権について、その期限の到来又は債権成立の時を見越してその支払期日に支払をなすべきことを命ずる仮処分を申請することは、特別の事情なき限りいわゆる保全の必要を欠くものとしてこれを許容し能はぬものというべきである。すなわち本件仮処分申請は申請人に申請の利益なきものとしてこれを却下するの外はない。〔労働契約-労働契約上の権利義務-就労請求権・就労妨害禁止〕
 次に、被申請人会社に対し、申請人の分会員による労務の提供を受領すべきことを請求しているからこの点につき考察する。およそ労働契約関係において労働者は使用者の指揮命令に従つて一定の労務を提供すべき義務を負い使用者はこれに対し一定の賃金を支払うべき義務を負うとすることは、その最も基本的法律関係である。すなわち労働者の労務の提供は労働者の義務というべきものであつて使用者に対する権利として考うべきものではない。もつとも使用者が正当の理由なくして労働者の労務の提供を受領しないときは、或は民法上の債権益遅滞として遅滞の責に任ぜねばならぬし、又場合によつては労働者に対する不利益な取扱をしたものとして不当労働行為の責任を負わねばならぬことがあろう。しかしこれを以て、一般的に使用者が労働者に対し、労務の提供を受領すべき義務あるものとなすことは誤りである。したがつて本件において申請人が被申請人会社に対し、その分会員による労務の提供を受領すべきことを要求するのはその主張自体失当である。