全 情 報

ID番号 04913
事件名 改定就業規則無効確認等請求事件
いわゆる事件名 高円寺交通事件
争点
事案概要  タクシー運転手が、タクシー運賃の改定に伴うタクシー乗務員の賃金規定の改定につき右改定を違法・無効であるとして旧規定に基づく賃金の支払いを求めた事例。
参照法条 労働基準法89条1項2号
労働基準法93条
体系項目 就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 賃金・賞与
就業規則(民事) / 意見聴取
裁判年月日 1990年6月5日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和61年 (ワ) 12335 
裁判結果 棄却
出典 労働判例564号42頁/労経速報1402号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔就業規則-意見聴取〕
 右事実によれば、被告が班長に特別の手当てを支給しているのは、担当している職務の内容に照らして相当なもので、特に不当な利益を与えているとか、或いは、班長が被告の利益の代弁者でもあるとはいえず、したがって、このような班長が賃金交渉委員に含まれていたからといって、乗務員の意見が正当に代表されていないとはいえないから、乗務員賃金協定の締結、ひいては、これを受けてされた乗務員賃金規定の改定の手続きに瑕疵があるとはいえない。
 のみならず、乗務員賃金規定は、就業規則の一種であって、その作成又は変更については、労働基準法九〇条一項により、労働者の意見を聴取することが必要であるが、その同意を得ることまでは要求されていないから、乗務員賃金規定の改定の前提となった乗務員賃金協定の締結に何らかの手続き上の瑕疵があったとしても、それによって、就業規則たる乗務員賃金規定の効力が影響を受けることはない。
〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-賃金・賞与〕
五 ところで、(証拠略)を比較すると、乗務員に支払われる給与、手当ての種類及びその金額は、新旧の乗務員賃金規定間ではかなりの相違のあることが認められる。
 そこで、この点をどのように評価するかが問題となるが、証人Aの証言と弁論の全趣旨によれば、被告は、乗務員賃金協定の締結に当たっては、固定給の部分を多くし歩合給の割合を少なくすることによって能率本位の無謀な運転や乗車拒否等をなくすると共に、乗務員から不満のあった各種手当ての見直しをするという基本方針に立って協議に臨み、その線で協定を締結し、これを受けて乗務員賃金規定の改定を行ったことが認められるし、タクシー運賃の値上げがあれば、それに応じて運収が増えるので、運収に占める賃金の歩合が変更になるのは、ある意味では当然であるから、原告ら主張のように、運収五〇万円以下の歩合がすべて五〇パーセントに切り下げられたからといって、それだけで賃金が不利益に変更されたとはいえない。
 また、(証拠略)によれば、新乗務員賃金規定で定められた給与、手当ての中には、勤続給や精勤手当てのように、削除され又は一乗務当たりの金額が減額されたものもあるが、その反面、本給(一〇乗務で月間運収が五〇万円以上の場合)、乗務給(乗務手当て)、無事故手当て、営業キロ手当て、小型車手当て、一時金(賞与)などのように、増額され又は新設されたものもあることが認められるから、原告ら主張のように、削除され又は一乗務当たりの金額が減額されたものだけを取り上げて、賃金が不利益に変更されたということができないこともいうまでもない。
 結局、本件のような賃金体系のもとでは、個々の給与や手当ては全体の中の部分にすぎないもので、乗員賃金規定の改定も不可分一体のものとしてされたことが明らかであるから、これに含まれる個々の給与や手当てごとに不利益に変更されたかどうかを比較しても意味がなく、乗務員が支給を受けている給与、各種手当ての総額をもって比較する以外にはないところ、(証拠略)によれば、乗務員賃金規定の改定の前後一年間を通じて被告に在籍していた乗務員四五名の総収入を比較したところ、原告Xら三名は、勤務時間が少なくなったことから減収になったが、他の乗務員四二名は、すべて増収になったことが認められるから、乗務員が支給を受けている賃金が本件の乗務員賃金規定の改定によって不利益に変更されたとはいえないというべきである。