全 情 報

ID番号 04924
事件名 業務命令効力停止等仮処分申請/地位保全金員支払仮処分申請事件
いわゆる事件名 金剛自動車事件
争点
事案概要  タクシー運転手が無線を私用に使い配車を妨げたこと、乗客から苦情が来たこと、てん末書提出を拒否したことを理由として懲戒処分としてバス操車係に配置転換され、後に組合から脱退したことを理由にユニオンショップ協定に基づき解雇されたことにつき配転業務命令の効力停止と地位保全の仮処分を提起した事例。
参照法条 労働組合法7条1号但書
労働組合法16条
労働基準法2章
労働基準法89条1項9号
体系項目 解雇(民事) / ユニオンショップ協定と解雇
労働契約(民事) / 人事権 / 降格
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
裁判年月日 1990年7月16日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成2年 (ヨ) 973 
平成2年 (ヨ) 1383 
裁判結果 一部認容・却下
出典 労経速報1407号7頁
審級関係
評釈論文 黒川道代・ジュリスト1016号130~132頁1993年2月1日
判決理由 〔解雇-ユニオンショップ協定と解雇〕
 ユニオンショップ協定を締結した労働組合の組合員が同協定に基づく解雇がなされる前に組合を脱退した上、相当期間内に他の組合に加入した場合、特段の事情のない限り、その協定の効力は当該脱退者には及ばず、同人に対する解雇は無効であると解するのが相当である。このことは、企業内に併存する一方の組合を脱退して他の組合に加入した場合や複数の組合員が組合を脱退して自主的な企業内新組合を結成した場合に限られず、一人の組合員が組合を脱退して企業外の既存組合に加入した場合においても変わりはないというべきである。
 申請人は、本件配転に関してA労働組合に支援を求めたところ、これが得られなかったので、自交総連大阪地連の法対部長と本件配転やその組合への加入に関する相談等をし、なお並行してA労働組合にも支援を求めたが、最終的にこれを拒否されたため、同組合を脱退し、一か月ほど後にはB労働組合に加入したものである。したがって、被申請人主張のような目的で駆け込み加入したものとは認められないし、また、後記のとおり本件配転が懲戒処分として有効であるとしても、右脱退の動機、理由が前記ユニオンショップ協定の趣旨に反する不当なものであるとまではいえず、結局、本件において特段の事情は認められない。
 したがって、被申請人とA労働組合との間のユニオンショップ協定の効力は申請人には及ばず、本件解雇は無効であるといわなければならない。〔労働契約-人事権-降格〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 本件配転は、被申請人のタクシー運転者就業規則第六五条の(5)の降職に該当すると解される。すなわち、第一に、被申請人会社においては自動車運転者が操車係など他の業務に従事する者よりも上位に位置付けられていること、第二に、懲戒処分の場合でなく、通常の業務命令の場合でも、タクシー運転者就業規則第一五条の規定の趣旨からみて、タクシー運転者を他の職種に変更することが可能であり(仮にタクシー運転者をそれ以外の職種に変更することができないとすれば、同条に規定された「職種変更」は意味をなさない)、その際、常に当該タクシー運転者の同意が必要であると解することもできないこと、そして、タクシー運転者の中で申請人のみこの規定が適用されないとする根拠はないこと、第三に、タクシー運転者について就業規則が別に存すること自体から、タクシー運転者をタクシー運転業務以外の職種に変更できないと解することは無理であること、第四に、疎明資料によると、被申請人会社では、以前、接客態度不良のタクシー運転者を懲戒処分として営業手(現在の操車係)に降職したこと、また、交通事故と乗客の苦情が多いバス運転者に懲戒処分として乗合バスの車掌を命じ、その後別の事由による懲戒処分として同人に五日間の下車勤(営業手の操車係)を命じたことが一応認められることなどに照らすと、タクシー運転者就業規則第六五条の(5)の「下位等級」にはバス操車係も含まれると解するのが相当である。
 したがって、本件配転は、タクシー運転者就業規則に根拠を有する懲戒処分であるといわなければならない。
 〔中略〕
 申請人は、被申請人会社において無線の業務外使用が常態であるかの如く主張しているが、実情は前記一2(六)の後段のとおりであって、申請人の主張を疎明するに足りる資料はない。また、申請人の無線私用は極めて短時間で一回限りであったとも主張しているが、平成元年一一月一〇日の前記業務外使用は延べ約四分間にわたるものであって、これが極めて短時間であったとはいえないし、それ以前にも申請人は無線を業務外に使用していたのであるから、そのとき一回限りというわけでもない。申請人は、同日の無線私用については、運行管理者の指示に従わず、被申請人の業務を防害したものであり、その通話の内容、時間、その業務に与えた影響などを考慮し、また、従前の無線私用の状況、てん末書ないし報告書の不提出の点などを併せ考えると、本件配転は懲戒処分として相当であり、懲戒権の濫用であるとはいえない。