全 情 報

ID番号 04964
事件名 労災保険審査決定取消請求控訴事件
いわゆる事件名 山口労災保険審査会事件
争点
事案概要  炭鉱で就労していて仕事中転倒しその際胸部に打撲をこうむった労働者が、その傷は三カ月程で治ゆしたが、その後胸部痛、頭痛、不眠等を訴えるようになり、右諸症状を業務上の負傷に起因するものであるとして労災保険給付の請求をした事例。
参照法条 労働者災害補償保険法12条(旧)
労働基準法75条
労働基準法施行規則35条1号
体系項目 労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 障害補償(給付)
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 災害性の疾病
裁判年月日 1954年4月8日
裁判所名 広島高
裁判形式 判決
事件番号 昭和28年 (ネ) 158 
裁判結果 取消・棄却
出典 労働民例集5巻2号198頁
審級関係 一審/04962/山口地/昭28. 7.30/昭和28年(行)14号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-障害補償(給付)〕
 被控訴人は前示の通り昭和二十三年九月二十四日抗木を抱えたまま転倒した際、軽い脳震盪を起し、また、前示胸部打撲症を受けた外第二肋骨骨折を起したこと、その後被控訴人は医療を受けた結果同年十一月二十八日治癒の決定があつたので、その頃から翌昭和二十四年九月中まで前示炭鉱において軽い労務に服していたものであつて、前示傷害は治癒したこと、右肋骨骨折も昭和二十五年四月頃にはレントゲン写真によつてもその痕跡の認められない程度になつていたこと、しかるに前示負傷後七ケ月余を経過した昭和二十四年五月頃から被控訴人は次第にその身体に異状を来し、同年九月頃からは、手指の震え、前胸部痛、呼吸困難、頭痛、不眠等の異状症状が顕著となり、とうてい前記中原炭鉱において労働に従事することができなくなつたので、休業して再び医師の治療を受け療養するようになつたこと、そして右の如き異状症状は、前示負傷のために被つた精神的打撃及び右負傷に関する精神的煩労が原因となつて生じた機能性の精神神経症すなわちいわゆる外傷性神経症によるものであつて、前記負傷と右神経症との間には相当因果関係のあることを認めることができる。
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-災害性の疾病〕
 前示外傷性神経症が労働者災害補償保険法第十二条第二項、労働基準法第七十五条第二項、同法施行規則第三十五条第一号所定の「負傷に基因する疾病」に当るかどうかについて判断する。
 前示外傷性神経症と前示負傷との間に相当因果関係のあることは前に認定した通りである。しかしながら、前記甲第五号証原審証人A、Bの各証言並びに原審鑑定人Cの鑑定の結果を綜合すれば、被控訴人の前記外傷性神経症は昭和二十四年夏頃の発病以来種々の療法が試みられたのにかかわらず一進一退して、昭和二十七年十一月頃の原審鑑定当時においても前記の如き症状が持続し、被控訴人は通常の労働に堪えられない状態に在つたものであるが、右神経症は前示負傷による精神的打撃等に基因するものであつて何等器質的病変は認められず、被控訴人において前示負傷に心理的に拘泥している限り、右神経症は一般の薬物的理学的療法等の医学的治療によつては全然治癒する見込みのないものであることを認めることができる。従つて右神経症は労働基準法施行規則第三十五条第一号にいわゆる「負傷に起因する疾病」というよりも、むしろ前示負傷のなおつた後に残存する神経機能の障害であると認めるのを相当とする。そして、以上に認定した諸事実に基いて判断すると、右神経症は労働者災害補償保険法施行規則第六条第一項別表第一の内第八級の三所定の「神経系統の機能に著しい障害を残し軽易な労務の外服することができないもの」に該当する程度のものと解せられる。
 然らば、被控訴人の前記外傷性神経症は障害補償費の保険給付の対象となつても、休業補償費の保険給付の対象となるものではないから、被控訴人の休業補償費の給付の請求を認容しなかつた控訴人の前記決定は、その理由はともかく、結論において正当である。