全 情 報

ID番号 04983
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 芝山・芝池事件
争点
事案概要  自動車事故(業務上災害)によって負傷した被災者が加害者に対して損害賠償を請求した事例。
参照法条 民法709条
労働基準法84条2項
体系項目 労災補償・労災保険 / 損害賠償等との関係 / 労災保険と損害賠償
裁判年月日 1957年9月24日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和29年 (ワ) 1778 
裁判結果 一部認容・棄却
出典 下級民集8巻9号1731頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-損害賠償等との関係-労災保険と損害賠償〕
 抑々労働者災害補償保険制度なるものは、国が、同保険の加入者であり、従つて又保険料の負担者である使用者に肩替りをして労働者に対する災害補償を保険給付の形式で行い、以て使用者の不誠実、無資力から労働者を守ると共に、使用者を不測の損害負担より解放することを目的とするものであるから、労災保険法に基く保険給付は、その実質においては、労働基準法にいわゆる災害補償であるに外ならず、従つて民法上の損害の填補とは必ずしも一致するものではない。而して労働基準法上の災害補償は、これを支払うべき使用者においてその災害の原因につき必ずしも過失あることを要するものではなく、その金額も法定されているのであつて、民法上の損害賠償とはその性格を異にし、両者はむしろ併存するものと解されるのである。ただ、災害補償の対象となつた損害と民法上の損害賠償の対象となる損害とが同質同一である場合には、民法上の損害賠償を認めることにより二重の填補を与えることとなつて不合理であるから、民法上の損害賠償責任を問うに際しては、災害補償をなした限度で賠償者は民法上の損害賠償義務を免れるものとしなければならないのである。災害補償をなした使用者自身が民法上の賠償者である場合に関する労働基準法八四条二項は明かに右の理を規定しているがこのことは民法上の賠償者が使用者以外の第三者であり、しかもその災害補償が労災保険法に基く保険給付の形式で行われた場合についても全く同様に解すべきものといわねばならない。以上の如くであるとすれば、労災保険法に基く保険給付を受領したからといつて必ずしも損害が十分に填補されたとは言に得ず、その受領が民法上の賠償請求権を全く排除して了う場合は唯一つ、災害補償の対象となつた損害と民法上の損害賠償の対象となる損害とが同質同一であり、しかもその損害額が保険給付の額以下の場合であるにすぎないのであつて、それ以外の場合には、右の事情は単に損害額の算定に当つて考慮さるべき一つの事情たるに止まるのである。ことに、労働基準法にいわゆる災害補償は、積極的消極的の財産上の損害の填補に資せんとするものであつて、精神上の苦痛の慰藉までも目的とするものではないから、労災保険法に基く保険給付金を全部受領した場合にも尚慰藉料の請求はできるものと解されるものであつて、この点だけからも、損害は十分に填補されるから民法上の賠償請求権はもはや存しないとの主張は当らないと言わざるを得ない。