全 情 報

ID番号 04986
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 吉田石油事件
争点
事案概要  故障した自動車を夜間道路上に放置していたためそれに衝突して負傷した者が加害者の使用者を相手どって損害賠償を請求した事例。
参照法条 民法715条
労働基準法84条2項
体系項目 労災補償・労災保険 / 損害賠償等との関係 / 労災保険と損害賠償
労災補償・労災保険 / 損害賠償等との関係 / 慰謝料
裁判年月日 1958年12月26日
裁判所名 高松地丸亀支
裁判形式 判決
事件番号 昭和31年 (ワ) 32 
裁判結果 一部認容・棄却
出典 下級民集9巻12号2682頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-損害賠償等との関係-労災保険と損害賠償〕
 ところで被告は労災保険金により支払つてあるからこれで損害賠償額の支払済である旨主張するが労働者災害補償保険法(以下労災保険法と略称する)による保険給付は事業主の負担すべき労働基準法所定の災害補償を国家のいわゆる社会保険の一環として事業主の経済的負担の軽減を図り労働者に対する迅速且つ適正な補償を確保するためのものに過ぎず右災害補償はその性質において民法上の不法行為における損害賠償と軌を一にするものではなく本件のように使用者については民法上の不法行為の要件を具備する場合はその責任が併存すると解すべきであつてただ同一損害について二重に損害の填補をさせる不合理を解消するため、労働基準法第八四条第二項により補償を受けた限度で民法による損害賠償責任を免れうるようになつていることからして労災保険法にはこのような規定がないけれども全く同様に解すべきである。従つて不法行為上の損害賠償請求権は失わないというべきところ原告Xが労災保険により国家からその所定の遺族補償費として二七七、七七〇円を受領したことは当事者間に争いなくこれは労災保険法第一五条第一項、同法施行規則第一六条第一項に定められた受領権者である原告Xに対する補償であるからこれによる民法上損害賠償責任の免脱はXについてのみ考慮されて然るべきである。よつてXに対する得べかりし利益喪失による損害は既に労災保険金の受領により補われていることになるからこの部分の本訴請求は認められない。
〔労災補償・労災保険-損害賠償等との関係-慰謝料〕
 而して労働基準法による災害補償は労働者又は遺族に対しその労働力の回復又は生計維持を図るために積極的及び消極的な財産上の損害を填補するためのものであつて精神上の苦痛に対する慰藉までも目的とするのではなく遺族において労災保険法による保険給付を全部受理した場合にもなお右慰藉料の請求をすることができるものと解するから右保険金の受領は原告等の慰藉料額に何等影響しないこと明白である。