全 情 報

ID番号 05024
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 錦タクシー事件
争点
事案概要  会社重役に対して暴行を働いたとして懲戒解雇された労働者が、真の原因は組合活動・争議行為にあり不当労働行為であるとしてその効力を争った事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 暴力・暴行・暴言
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
裁判年月日 1958年6月30日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和31年 (ヨ) 2581 
裁判結果 却下
出典 労働民例集9巻3号248頁
審級関係
評釈論文 慶谷淑夫・ジュリスト168号91頁/労働経済旬報387号26頁
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-暴力・暴行・暴言〕
 申請人等は就業規則第七九条第三号にいう「他人」とは正当な業務遂行者をいい、同号はかかる者に暴行、脅迫を加え、またはその業務を妨害した場合のみを指称すべきであるところ、前記Aの行為は違法行為であるから、右条項に該当しない旨主張するが、申請人等がAに対し暴行を加えた理由は前認定の事実から明らかなように同人が委任状による組合員給料の一括支払に応じなかつたことに憤慨したからであつて、それ以外の理由に基くものではなく、(なお、申請人等は同人等の行為が違法行為排除の目的でなされた旨主張しているが、かような目的でなされたと認むべき的確な疎明はないし、また緊急避難、正当防衛等の要件の認められない本件では、申請人等の行為が違法性を失う理由はない。)しかもAが委任状による給料の支払を拒否した行為は労基法第二四条に照し違法ということができないから、右主張は右条項の解釈を論ずるまでもなく採用できない。また、申請人等は、同条第四号は正常適法な業務上の指示命令を不当に拒否したり、社業、職務秩序を紊した場合であつて、スト中は業務命令は排除されており、平常時とは異るから本件の場合は本号に当らない旨主張するのであるが、争議期間中使用者の労務に関する業務命令が排除されることはその主張するとおりであるけれども、それかといつて、使用者が労働者に対して有する社業秩序維持のための支配権を全般的に失うわけでないことは、労働契約の存する限り当然であり、本件のように従業員として給料を受領する関係では争議中と雖も平常の場合と何等異ることなく、使用者の指示命令による秩序に服すべきであるのみならず、申請人等のなした行為は会社の給料支給方法に対する抗議といわんよりは、むしろ暴力沙汰であつて、全くの違法行為と認めるを相当とするから、社業秩序を紊したものとして本号に該当するものといわなければならない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 会社が組合を嫌悪し、行過ぎの行為があつたことは前認定のとおりであり、また成立に争のない甲第一六号証、前掲甲第一九号証乙第三号証、証人B、Cの各証言及び申請人両名各本人訊問の結果によれば、会社は時間外、休日、深夜割増賃金の支払をせず、労基法違反の行為があつたことも一応認められるところであつて、会社側の叙上の態度が組合員を徒らに刺戟したであろうことも窺えない訳ではないけれども、前叙のとおり本件暴行々為の原因は申請人等の委任状による組合員給料の一括支払の要求に会社が応じなかつたことにあるのであつて、右会社の態度が違法といえないこと、しかも当日大多数の組合員は給料の支払を受け、僅か九名の不在組合員の給料のみが不払となつたにすぎず、これらの者も既に組合から給料の立替支給を受けており(このことは申請人Dの供述から窺える)、特に急迫した事情にあつたとも認められないのみならず、これらの組合員に対してもその翌日または翌々日にそれぞれ支払われたことは被申請人代表者E本人訊問の結果により疎明されるところであるし、会社は委任状による給料支払の可否を労働基準局に問合せた上その態度を決したのであり、右基準局の意向は申請人Dにおいて了知していた(このことは申請人Dの供述からも窺える)にかかわらず、この点を無視して前示の行為に出たのであつて申請人等主張のように、会社の違法な挑発に乗ぜられたものとは考えられない事情にあることその他前認定の暴行の行われた経緯、暴行の程度等を考慮すれば、争議中感情の尖鋭化したときのできごとであるとはいえ、その情状軽くはなく本件解雇をもつて解雇権の濫用ということはできない。