全 情 報

ID番号 05030
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 田中鉄工所事件
争点
事案概要  特定の技術的作業に従事してきた労働者に対する雑役への配転につきその効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働組合法7条1号
労働組合法7条3号
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界
賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 就労拒否(業務命令拒否)と賃金請求権
裁判年月日 1958年8月13日
裁判所名 神戸地
裁判形式 判決
事件番号 昭和33年 (ヨ) 34 
裁判結果 認定
出典 労働民例集9巻5号835頁
審級関係
評釈論文 季刊労働法31号129頁/慶谷淑夫・ジュリスト167号86頁/労働法律旬報324号11頁
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
 ところで労働関係において、一定の事業場における多数未組織の勤労者の間に一般的且漠然たる団結への気運が生じている際、その気運を更に推進して遂に一個の労働組合結成を実現し或は既存の組合への個々の加入により結局全従業員を一個の組織に結集せしむる結果を生ずるためには、明確、強固たる団結実現への意思と熱意と指導力を持つた少数の勤労者の行動を媒介として必要とするものであつて、若し斯る団結への中核たるべき少数の者を中途にして当該事業場より排除して他に之を移すならば漸くにして形を整えやがて強固に定まらんとする前記の様な気運はやがて雲散霧消するか、そうでなくても遂には漫然たる一般的希望の域に止るべきことは団体一般の構成、出現の経過における自然の理であつて吾人の経験則上疑の余地のないところであるから、使用者が従業労働者間に生じた斯る事情を認識しながら尚前記の意味における少数者たる勤労者を他の事業場に移転せしめ事実上従来の事業場への出入を不可能若くは困難ならしめるならば、仮に新しい職場における就労が当該勤労者個人にとつては給与等の収入が増加しその他経済的、主観的に明に利益をもたらし、所謂栄転に該当する場合においても原則としては爾余の勤労者各個に保障せられてある団結権の行使、実現を敢て阻害するものとして違法というべきであり、ただ右の違法性が阻却せられる場合としては、たとえば当該勤労者がその配置転換に同意しているとか当該勤労者を新しく配置転換させることが当該企業の維持若くは営業上の利益取得のために絶対的に必要であつて、他の者を以て之に代替することが不可能または著しく困難であるとかいつた様な特段の事情のある場合に限るものと解するのが相当である。そして右の違法は爾余の一般勤労者のみならず配置転換せられた当該勤労者においても亦之を主張しうるものというべきである。
 そうすると以上に認定した諸事実の程度を以てしては申請人に対する本件配置転換について右に説示したような特別の事情があるものと到底認められないのであつて、むしろ前記認定の事実関係の下においてなされた申請人に対する本件配置転換はそれが所謂転勤であるか否かの区別に関せず違法無効の行為となすに難くないところである。〔賃金-賃金請求権の発生-就労拒否(業務命令拒否)と賃金請求権〕
 申請人が拒否した堺市所在の工事場における就労は被申請人会社が申請人に対する違法な不利益な取扱としてなした無効の配置転換に基くものであること前説示のとおりであつて、しかも申請人が右配置転換の措置により従前の稼働場所たる神戸造船所において就労する途も会社の拒否により閉ざされていることが証人Aの証言及び申請人本人訊問の結果により一応認められるのであるから、申請人の休業は専ら被申請人会社の責に帰すべき事由に基くものというべきであり、従つて被申請人会社側より申請人が堺市の現場に就労すべくまた就業し得べきことを主張することは許されないと解すべきであるから、被申請人会社は申請人の休業に付その間の双務契約たる労働契約上全部の危険を負担すべく、従つて申請人の休業期間に対しても被申請人会社は賃金全額の支払義務ありというべきであつて、被申請人援用の労基法第二十六条は右危険負担の範囲を制限する趣旨でなく、右負担すべき危険の内平均賃金の百分の六十までの範囲に付ては特に罰則(労基法第百二十条)を設けて使用者にその支払を強制し、以て労働者の最低生活を保障せんとの政策的規定であると解すべきであるから、被申請人会社は申請人に対し前記配置転換により申請人が休業を始めた昭和三十三年一月十九日以降平均賃金相当額を支払うべき義務ある。