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ID番号 05055
事件名 遺族補償給付及び葬祭料不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 熊野労基署長(石原産業)事件
争点
事案概要  けい肺結核で加療中の労働者の胃がんによる死亡が業務上の死亡に当るか否かが争われた事例。
参照法条 労働基準法79条
労働者災害補償保険法7条1項
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 職業性の疾病
裁判年月日 1982年1月28日
裁判所名 津地
裁判形式 判決
事件番号 昭和52年 (行ウ) 6 
裁判結果 棄却
出典 労働判例380号38頁/労経速報1124号11頁/訟務月報28巻3号615頁
審級関係 控訴審/名古屋高/昭61. 9.29/昭和57年(行コ)1号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-職業性の疾病〕
 亡Aは、前記のとおりB鉱業所の坑内夫としての勤務によってけい肺症に罹患していたのであるから、右勤務の間に、各種金属類の粉じんを吸引したと推認されるところ、(証拠略)によれば胃がんについて、鉱山労働者の発症率が高率であって、その原因として社会経済階層の影響と、職業環境の影響とが重なって作用していることが指摘されていることが認められる。
 また、前記C証人の証言によれば、じん肺患者には、同証人の経験からすると肺がんのほか胃がん、喉頭がん等で死亡する者が一般の老人の場合よりも多いと思われることが認められる。
 しかしながら、右のところから、直ちにじん肺と胃がんとの関連性ないしけい酸じん暴露と胃がん発生との因果関係を肯認することは、もとよりできず、一方、(証拠略)によれば、現在、じん肺と肺がんの関係について各種研究及び検討がなされているが、現段階では、なお因果関係の存在を積極的に肯認するまでには至っていないものと認められ、またひ素、カドミウム、ニッケル等について肺がん、前立腺がん、鼻腔のがんとの関連性が肯定されているが、けい酸についてはコバルトとともに発がん性については否定的に解されており、その他、じん肺と肺がん以外のがんとの関連性は必ずしも肯定されていないと認められる。
 以上を総合すると、各種粉じんの吸入、吸飲と胃がん発症との関係については、現在、なお、研究がなされているものの、いまだ両者の間に原因、結果という関係があるとは認めることができないといわざるをえない。
 したがって、亡AがB鉱業所において坑内夫として勤務したことと同人の胃がん罹患との関係もまたこれを認めることができないというべきである。
 〔中略〕
 以上のとおり、亡Aが昭和四八年二月ころ胃がんに罹患していたとの事実は、これを認めることができず、同人がD病院でE医師によって胃がんと診断されたときには、既に胃がんそのものによって到底手術に耐えられないような身体の状態であったと認められるのであるから、けい肺症のために根治、延命手術がなしえなかったものとする原告の主張は、その余の点について判断するまでもなく採用することはできない。
 4 なお、原告は、亡Aは、けい肺患者であったから、その余病である胃がんで死亡した場合にも、余病を発症することなくけい肺で死亡した場合との公平上、亡Aの死亡も業務上の事由によるものとすべきであると主張しているが、右は労災保険法の立法目的、立法趣旨を超えた原告独自の見解であり、到底採用できない。