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ID番号 05082
事件名 労働者災害補償不支給決定処分取消請求控訴事件(差戻審)
いわゆる事件名 浜松労基署長(雪島鉄工所)事件
争点
事案概要  作業中のトラブルによりトラック運転手から暴行を受けた従業員の負傷事故につき、休業補償等の請求がなされた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法14条1項
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 暴行・傷害・殺害
労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 休業補償(給付)
裁判年月日 1985年3月25日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和58年 (行コ) 83 
裁判結果 一部認容
出典 時報1152号136頁/東高民時報36巻3号44頁/タイムズ555号266頁/労働判例451号23頁/訟務月報31巻12号3121頁
審級関係 上告審/最高一小/昭58.10.13/不明
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
 労働者災害補償保険法第七条第一項第一号、第一二条の八第一項第二号、第一四条第一項によれば、休業補償給付は、労働者が業務上の負傷による療養のため労働することができない場合に支給されるところ、ここに「業務上の負傷による」とは、それが業務遂行中に(業務遂行性)、かつ、業務に起因して(業務起因性)発生したものであることをいい、そして、業務起因性とは業務と負傷との間に経験法則に照らして認められるところの客観的因果関係(相当因果関係)が存在することをいうものと解される。したがって、一般に就業場所で業務の遂行中に生じた負傷は、原則として業務起因性が認められるものというべきである。
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-暴行・傷害・殺害〕
 控訴人は、株式会社Aのレッカー車の運転手として、昭和五〇年四月八日同会社の指示を受け、レッカー車を運転して、同日午前一〇時ころB青果市場新築工事現場に赴き、同現場において同僚のCがトラックにより運搬してきた鉄骨をCとともに地上に降ろす作業に従事することになった。当日は雨天であり、右作業に従事したのは控訴人とCの二人だけで、Cはトラックの荷台に積載されていた鉄骨の上に乗り、ワイヤーロープによる鉄骨の玉掛け作業に、控訴人はレッカー車のクレーンの操作にそれぞれ従事したが、作業を始めてから一〇分位経過したころ、Cが鉄骨に掛けたワイヤーロープのたるみを直すために控訴人がウインチを僅かに巻いたはずみで、Cは、危うくトラックから落ちそうになったので、控訴人の右処置に憤激し、クレーンの運転席めがけて鉄製の角当てを投げつけ、手に鉄パイプを所持して、トラックから飛び降り、クレーンの運転席の前に来て、控訴人に対し殴りかかる姿勢を示した。控訴人は、Cの発言が聞こえず、なぜ怒っているのか、理解できなかったが、危険を感じ、現場監督のDがCを止めに入った隙に、クレーンの運転席から降りて、難を避けた。その後、Cがトラックの荷台の上に戻ったので、控訴人は、いつまでこうしていては仕事ができないので、右地点からCに対し「話を聞くから、こっちへ来い。」と大声で怒鳴ったが、Cは、これに応じなかった。そこで、控訴人は、トラックの下まで来て、Cに対し「どうして怒っているんだ。」と聞いたところ、Cは、「合図をせんのに、なぜ巻いた。」というので、控訴人は、「自分は巻いてない。たるみを直しただけだ。玉掛けの合図がわからん。合図を待っていた。」と答えたところ、この答弁に憤激したCは、スパナを二つ手に持って、トラックの荷台から飛び降りたので、危険を感じた控訴人は、五、六メートル余り逃げ、止めに入ったDを中にして、Cと相対じしたが、短気なCは、Dの止めるのを振り切って、控訴人をスパナで殴りつけ、控訴人に対し前記傷害を与えた。なお、両者間に私怨関係は存しない。
 右認定に反する(証拠略)は、前掲各証拠に照らしたやすく措信しがたく、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
 右認定事実によれば、控訴人の負傷は、鉄骨の積み降ろし作業につき、控訴人とCとの間の意思疎通を欠いたことに起因し、かつ、自己を正しいと信ずる控訴人は、Cの憤激の理由を聞きただし、これを解消しなければ、その作業の性質上、事後の作業を進めることができないわけであり、Cの控訴人に対する憤激は、いわばクレーンによる鉄骨の積み降ろし作業に内在する危険から生じたものと認められ、更に一連の事件は、たかだか数分程度以内のものと推認され、被控訴人の主張するように、争いが一旦おさまった後、控訴人の私的挑発行為により生じたものとは認めることはできないから、控訴人の負傷には業務遂行性及び業務起因性があるものと解するのが相当である。
〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-休業補償(給付)〕
 そして、労働者災害補償保険法第一四条第一項によれば、休業補償給付は、労働者が業務上の負傷による療養のため労働することができないために賃金を受けない日の第四日目から支給されることになっており、かつ、それは雇傭契約上賃金請求権を有する日であると否とを問わないと解されるところ、(証拠略)によれば、控訴人は、負傷の翌日である昭和五〇年四月九日については、有給休暇の取扱いを受け、賃金の支給を受けていることが推認されるから、結局、控訴人は、同月一三日から休業補償給付を受けることができるものといわなければならない。
 そうだとすれば、被控訴人の本案前の主張は理由がなく、被控訴人のなした本件労働者災害補償保険不支給決定は、そのうち控訴人が右負傷により賃金を受けない日の第四日目である昭和五〇年四月一三日から同月二一日までに係る部分に限り、違法である。