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ID番号 05123
事件名 行政処分取消請求事件
いわゆる事件名 障害補償費相続事件
争点
事案概要  労災保険法の障害補償費の相続性および同請求権の時効の起算点が争われた事例。
参照法条 労働基準法77条
労働基準法115条
労働者災害補償保険法42条(旧)
体系項目 労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 障害補償(給付)
労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 時効、施行前の疾病等
裁判年月日 1968年7月20日
裁判所名 高松高
裁判形式 判決
事件番号 昭和42年 (行コ) 2 
裁判結果
出典 タイムズ225号193頁/訟務月報14巻8号914頁
審級関係 一審/05121/高松地/昭42. 5.30/昭和38年(行)3号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-障害補償(給付)〕
 業務上の災害に因つて身体障害を受けた労働者は、労働基準法第七七条に基づき使用者に対して障害補償請求権を取得すると共に、前記改正前の労働者災害補償保険法第一二条第一、二項により政府に対して障害補償費の保険給付を請求しうる権利を取得するものであるところ、元来労働者災害補償保険法は労働基準法に定められた災害補償を迅速確実に実現させる目的を以て制定されたものであり、労働者が労働者災害補償保険法上の保険給付を受ける場合においては、使用者はその価格の限度において補償の責を免れるのであるから(労働基準法第八四条第一項)、右労働基準法上の障害補償請求権と労働者災害補償保険法上の障害補償費給付請求権とは、その基本的性格を同じくするものと言わねばならない。
 ところで労働基準法上の障害補償は、身体障害を受けた労働者に対する生活保障的性格を有すると共に、不法行為に基づく損害賠償的性格をも有するものと解されるから(労働基準法第八四条第二項、第七八条参照)、労働基準法に基づく労働者の障害補償請求権は当然相続の対象となるものと解すべきである。もつとも労働基準法第八三条第二項では、補償を受ける権利はこれを譲渡しまたは差押えてはならない旨規定しているが、右規定は、労働者をして現実に補償を受けさせるための保護規定であるから、右規定を以て障害補償請求権の相続性を否定する根拠とはなし難い。
 そうすると、右労働基準法上の障害補償請求権とその基本的性格を同じくする労働者災害補償保険法上の障害補償費請求権もまた不法行為に基づく損害賠償的性格を帯有し、保険給付請求権者が死亡した場合には当然相続の対象となるものと解すべきである。
〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-時効、施行前の疾病等〕
 労働基準法上の障害補償請求権及び昭和三五年法律第二九号による改正前の労働者災害補償保険法上の障害補償費給付請求権は、労働者の負傷または疾病がなおつたとき、身体に障害が存する場合に発生するものであり、いずれも二年を経過したときに時効によつて消滅するものであるところ(労働基準法第一一五条、昭和四〇年法律第一三〇号による改正前の労働者災害補償保険法第四二条、右両請求権はいずれも不法行為に基づく損害賠償的性格を有するものであること前叙のとおりであるから、その消滅時効の起算点は、民法第七二四条の類推により被害者が損害および加害者を覚知した時、すなわち、業務上の災害に因つて当該身体障害が生じたものであることを覚知した時点であると解すべきである。