全 情 報

ID番号 05129
事件名 遺族補償等行政処分取消請求事件
いわゆる事件名 和歌山労基署長事件
争点
事案概要  清掃車からごみを降ろす作業中に倒れて脳出血により死亡した者が業務上に当るか否かが争われた事例。
参照法条 労働基準法75条
労働基準法施行規則35条38号(旧)
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 1969年11月6日
裁判所名 和歌山地
裁判形式 判決
事件番号 昭和42年 (行ウ) 5 
裁判結果 棄却
出典 訟務月報16巻2号174頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 右認定の事実によれば、本件発病当時李に疲労の蓄積があつた形跡なく、又当日の作業が日常の作業に比し、その環境(気象条件、作業現場の物理的条件等)、内容において特に過重であつたという事実もない。且つ右作業は塵芥処理場の悪環境を考慮に入れても、なおその質及び量から見て著しく血圧を高進せしめる程の重労働であつたとは認め難い。以上の判断に従えば、本件業務が前項摘示の血圧の限度超過に相当程度の原因を与えたものと云い得ないこと明らかである。よつて本件業務と本件発病との間に相当因果関係を認めることはできない。
 五、最後に原告は本件死亡の一因として本件発病後の処置の不適切を挙げ、これと本件業務との間に因果関係があることを理由に本件死亡の業務起因性を主張するからこの点につき判断する。
 (証拠省略)を総合すると、Aが倒れるや直ちに居合せた同僚が同人をかかえ上げて凉しい木蔭に移し、急拠前記清掃事務所へ電話連絡して救急車の手配を依頼したが、しばらくして駆けつけてきたのは同事務所所属のマイクロバスであつたこと、右自動車でAを病院へ運ぶ途中、同人は二度程嘔吐したこと、病院に到着したのは午後三時頃で、発病時刻(午後二時一五分頃から同四五分頃までの間)から医師の診察を受けるまで最大限約四五分の時間を要したこと、以上の事実が認められ、これらの事実よりすると発病後病院に収容されるまでの処置がその症状を殊更に増悪せしめ、死の結果を招来する原因の一つとなつたのではないかとの疑問も生じ得るのであるが、他方右各証拠によれば、Aの発作は極めて急激に生じ且つその直後意識障害ないし言語障害、右半身不随という重篤な症状が急速に起きていたこと、病院収容直後診察した医師は「もう助からない。家族を呼ぶように」と付添いの同僚に告げていたこと、Aは発病後死亡するまで終に意識を回復しなかつたことなどの事実も認められ、これらの事実よりすれば、Aの症状は当初から極めて重篤、危険なものであり、これに因り本件死亡に至つたことも充分考えられるから、前記疑問を医学的に解明する資料のない本件に於ては結局本件発病後の処置と本件死亡との間の相当因果関係の存在は、これを認めるになお躊躇せざるを得ないのである。よつて原告の右主張は採用できない。
 六、以上の理由により本件脳出血は労働者災害補償保険法第一二条、労働基準法第七五条第二項、同法施行規則第三五条第三八号所定の「業務に起因することの明らかな疾病」でなく右疾病による本件死亡は労働者災害補償保険法第一条、第一二条第二項、労働基準法第七九条にいう業務上の事由による死亡には該当しないと言わなければならない。