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ID番号 05132
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 住友石炭鉱業事件
争点
事案概要  労基監督署長の遺族補償不支給処分を違法として国家賠償法に基づき損害賠償を請求した事例。
参照法条 国家賠償法1条
体系項目 労災補償・労災保険 / 審査請求・行政訴訟 / 審査請求との関係、国家賠償法
裁判年月日 1970年4月17日
裁判所名 札幌地
裁判形式 判決
事件番号 昭和42年 (ワ) 773 
裁判結果 棄却
出典 時報612号48頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-審査請求・行政訴訟-審査請求との関係、国家賠償法〕
 裁決取消訴訟については、裁決に固有の違法を理由とするものと、原処分の違法を理由とするものとの二つの類型が考えられる(後者は行政事件訴訟法上はそのような主張を許されないことになったが、行政事件訴訟特例法では許されていた。)。このうち、判決固有の違法を理由とする取消訴訟の判決の効力が原処分の違法性と全く関係のないものであることはいうまでもない。しかし、原処分の違法を理由とする裁決取消訴訟にあっては、形式的には裁決の取消しが求められているにすぎないにしても、実質的には原処分の違法事由そのものが取消原因(形成要件)として審理の対象とされるのである。このような場合にも訴訟の対象となっているのはあくまでも裁決の違法性の有無であり、たまたま原処分にも共通する違法原因があるにすぎないとするとらえ方もできなくはないが、行政事件訴訟法一〇条二項の文言や訴願制度が原処分に対する準司法的な不服審査制度であることからみて、そのようなとらえ方には賛成できず、むしろ原処分の違法性そのものが裁決取消の形成要件として訴訟の対象とされていると解して差し支えないと考える。それゆえ、原処分の違法を理由とする裁決取消訴訟の判決は、裁決のみならず、原処分の違法性の存否についての判断をもその主文中に包含しているものというべく、したがって、原処分の違法性の存否についても既判力を生ずるとするのが相当である。
 これを本件についてみるに、原告Xは、北海道労働災害補償保険審査会のした訴願裁決に対し、原処分の違法を理由に同審査会を被告として裁決の取消を求めたのであって、その訴訟において原処分の違法が訴訟の対象とされ、請求棄却の判決が確定した以上、その既判力は原処分の違法性についてもおよぶから、後訴においてこれに反する主張をすることは許されないものというべきである。
 そうすると、原告Xが、本訴において、被告に対し、岩見沢労働基準監督署長のした遺族補償費等申請棄却処分について、その違法を主張することは許されないものといわなければならず、これが違法であることを理由として国家賠償を求める原告Xの本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、すでにこの点において理由がないので失当として棄却すべきである。