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ID番号 05197
事件名 遺族補償費給付等不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 天満労基署長事件
争点
事案概要  高血圧症等の基礎疾病を有する出稼ぎ労働者がガス管敷設工事に従事中に脳出血を発症して死亡したケースで業務上の死亡に当るか否かが争われた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法7条1項
労働者災害補償保険法12条の8
労働基準法79条
労働基準法80条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
裁判年月日 1988年5月16日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和58年 (行ウ) 27 
裁判結果 認容
出典 タイムズ670号126頁/訟務月報35巻1号64頁/労働判例518号6頁/労経速報1336号14頁/法律新聞887号6頁
審級関係 控訴審/大阪高/平 2. 9.19/昭和63年(行コ)16号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
 労働基準法七九条、八〇条所定の「労働者が業務上死亡した場合」には、労災保険法に基づき遺族補償給付及び葬祭料が支給されるところ、「労働者が業務上死亡した場合」とは、これを疾病による場合についていえば、労働者が業務に基づく疾病に起因して死亡した場合をいい、右疾病と業務との間に相当因果関係が存在することが必要である。本件において、Aが本態性高血圧症の基礎疾病を有しており、その増悪によつて脳出血を発症して死亡したことは当事者間に争いがないところ、このように死亡の原因となつた疾病が基礎疾病に基づく場合であつても、業務の遂行が基礎疾病を急激に増悪させて死亡時期を早める等、それが基礎疾病と共働原因となつて死亡の原因たる疾病を招いたと認められる場合には、業務と死亡原因との間になお相当因果関係が存在するものと解するのが相当である。〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 四 以上一ないし三項に、〈証拠〉を総合して判断すると、Aの高血圧症(基礎疾病)は中程度のものであり、その自然増悪により脳出血(本件発症)が引き起こされたものとは認め難く、むしろかかる状態に至つていなかつたものと推認されるが、他方、出稼ぎという生活環境の変化と暖房のない住環境及び昼間、夜間の不規則な勤務に、休息時間の少ない連続勤務等が加わることによつて精神的緊張が持続しかつ肉体的疲労が相当蓄積されてAの高血圧症に悪影響を及ぼしていたところ、発症日直前に四日間連続して寒気の強い夜勤に従事したうえ、発症日には交通量の多い幹線道路でブレーカー作業に比較的長時間従事したため、これらがAの高血圧症を急激に増悪させて本件発症を惹起せしめたものというべきであり、業務が基礎疾病と共働して死亡の原因を招いたものと認めるのが相当である。右認定及び判断に反する〈証拠〉は採用しない。
 したがつて、Aの死亡と業務との間には相当因果関係があり、同人の死亡には業務起因性を認めることができるというべきであるから、同人の死亡が業務上の事由によるものでないとした被告の本件処分は違法である。