全 情 報

ID番号 05201
事件名 体業補償給付不支給処分取消請求事件/療養補償給付返還処分取消請求事件
いわゆる事件名 和歌山労基署長(中尾塗料商事)事件
争点
事案概要  コンピューター操作に従事してきた女子職員の頚肩腕症候群につき休業補償が支給されてきたが治癒したものとして支給が打ち切られたのに対してその処分の当否が争われた事例。
参照法条 労働基準法75条
労働基準法76条
労働者災害補償保険法7条1項
労働者災害補償保険法13条
体系項目 労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 休業補償(給付)
裁判年月日 1988年8月17日
裁判所名 和歌山地
裁判形式 判決
事件番号 昭和62年 (行ウ) 1 
裁判結果 棄却
出典 労働判例524号16頁/労経速報1340号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-休業補償(給付)〕
 三 労災保険法上、療養補償給付は労働者が業務上負傷し又は病気にかかり療養を必要とする場合に、休業補償給付は労働者が業務上の傷病のために働くことができないために賃金の支払を受けない場合に、それぞれ支給され、いずれも原因たる傷病が治癒したと認められるときまで給付が続けられるものであるところ、右にいう「治癒」とは、療養中の労働者の傷病の状態が固定して引き続き療養の必要がなくなったと認めるにいたったときであり、特に疾病の場合には、「急性症状が消退し、慢性症状は持続していてもその症状が安定し療養を継続しても医療効果を期待することができない状態になったと判断されるにいたったとき」であると解するのが相当である。
 本件について案ずるに、前記二において認定した各事実に照らすと、原告の頚腕症候群の症状は、遅くとも昭和五九年三月三一日にはすべて消退した事実が認められ、原告の頚腕症候群はその時点においてすでに治癒したものと判断することができる。なお、(証拠略)によれば、原告は、昭和五九年四月一日以降においても、時に右肩、前上腕部の疼痛、しびれ感、吐き気などの症状を訴え、同年一二月二八日にはA病院で受診し、慢性疼痛の診断の下に治療を受けるようになった経過が認められるが、右証言及び前記証人Bの証言によれば、右慢性疼痛は、多分に心因的な疾患であって、原告の場合、従前の疾患が基盤となって生じた精神的な抑うつ状態に増幅されて疼痛の継続を訴えているもので、従前の頚腕症候群の疾患そのものとは異質のものと認めることができるから、右の経過をもって頚腕症候群治癒(症状固定)の判断を左右する事情とみることはできない。そうすると、昭和六一年一二月一一日に労働保険審査会の裁決によって一部修正を受けた後の本件各不支給処分及び本件支給取消処分は、右と同様の判断に基づいて決定されたものとみなすことができるから、いずれも正当であり適法な処分というべきである。