全 情 報

ID番号 05211
事件名 行政処分取消請求事件
いわゆる事件名 地公災基金大阪市支部長(市立図書館)事件
争点
事案概要  市立図書館で電話交換業務に従事してきた女子労働者に発症した頚肩腕症候群につき公務起因性が争われた事例。
参照法条 地方公務員災害補償法26条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 職業性の疾病
裁判年月日 1989年3月27日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和59年 (行ウ) 110 
裁判結果 認容(控訴)
出典 タイムズ694号237頁/労働判例546号41頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-職業性の疾病〕
 地方公務員の災害の公務起因性の認定にあたっては、補償法及び右通知が行政上の運用基準とされるが、本来公務上の災害(疾病)と私企業における業務上の疾病との間で取扱に差異があってはならないことから、右通達・通知は、互いに他を補完すべきものであって排斥すべきものではないと解せられるところであり、また、右通達・通知は現時点において最も新しい医学的常識に則した認定基準を設定していると考えられるのであって、当裁判所もこれらを合理的認定基準として斟酌することが相当であるが、右通達・通知の認定基準は、行政庁をして適性迅速かつ斉一的に認定業務をなさしめる趣旨から設定されたものであり、裁判所を拘束する性格のものではない。
 ところで、後記認定のとおり原告の従事していた公務は右通知・通達にいう「上肢の動的筋労作または静的筋労作を主とする業務」に該当する電話交換手であるところ、かかる公務に従事した公務員に本症が発症した場合の公務起因性の判断にあたっては、右通知・通達が定めているところのすべての要件を満たしているときには、原則として公務起因性を肯定すべきであるが、その中のある要件(例えば「その業務量において同種の他の職員と比較して過重である場合またはその業務量に大きな波がある場合において」)を欠く場合であっても、かかる公務における作業が本症の発症原因として医学経験則上一般的に肯定された業務危険を伴うものであることが認められていることに鑑み、当該公務の実態に則して医学経験則上納得しうるに足りる、公務の過重性及び労働負荷の特異性、有害性が認められ、そのため当該公務が単に本症発症の一つの要因たるを越えて相対的に有力な原因をなしたものと認められるときは、なお公務起因性を肯定すべきものと解するを相当とする。
 [中略]
 以上の説示を総合すると、原告の本症は、原告の素因との関連性を全く否定することはできないけれども、原告の従事していた公務に起因して発症したものと解するのが相当である。即ち、原告の従事していた公務をその実態に則して考察すれば、本症発症との関連において右公務には医学経験則上納得しうるに足りる過重性、及びその労働負荷の有害性が認められ、また、原告が当該公務に従事していなくても本症は発症していたとまでは認められず、むしろこれに従事していなければ本症に罹患していなかった可能性の方が高いと考えられ、してみると原告の従事していた公務が唯一の原因であったと認めることはできないとしても、右公務が少なくとも相対的に有力な原因になって本症が発症したものと認めることができる。
 よって、被告が原告に対してなした本件処分は、本症を原告の従事した公務に起因しないものと誤認した違法な処分であるから、取消を免れない。