全 情 報

ID番号 05212
事件名 療養補償費等支給決定取消処分請求事件
いわゆる事件名 飯田橋労基署長事件
争点
事案概要  自動車でA会社に製品を届けた後、妻と一緒にB商店に立ち寄ったところ酔漢により暴行を受けたことによって生じた傷害が、業務に起因するか否かが争われた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法7条1項
労働者災害補償保険法13条
労働基準法75条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 通勤途上その他の事由
裁判年月日 1989年3月29日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和59年 (行ウ) 99 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1367号20頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-通勤途上その他の事由〕
 B商店に立ち寄ったことに関しては、(書証略)中に、会社からCと営業部長宅を回って再び会社に引き返す往復約二〇キロメートルの業務行程において順路を僅か三〇〇メートル離れたからといって不自然とはいえないとし、また、(書証略)中に、営業部長宅に行くには入り方が二つあり、いずれも順路であるが、一つの順路を取ると逸脱は一〇〇メートル前後しかないとして、いずれにおいても順路から外れていたことを当然の前提とする部分があって、このような審査段階での主張との関係で見ると、D薬局前でUターンするのがCから営業部長宅に至る順路であるといえるかどうかには疑問がある。また、原告は、営業部長宅の近くにある小さな路地を右折するのは、反対方向から来る車があって危険であると主張するが、危険の度合いはD薬局前でUターンする場合にも殆ど変わらないと考えられるし、(書証略)によれば、B商店よりも約一一五メートル手前の地点には、信号機の設置されたE駅前交差点があって、安全に右折し又はUターンすることが可能であることが認められるから、少なくとも右交差点を利用するのが最も合理的であって順路に当たるというべきである。
 そうすると、原告は、Cに製品を届けた後に営業部長宅に直行することなく、同部長宅への順路を約一一五メートル(往復で約二三〇メートル)外れてB商店に至ったことになるのであって、このことも、営業部長宅を訪れる目的の存在に疑問を抱かせる事情の一つというべきである。原告は、会社からC、営業部長宅を回って会社に引き返す約二〇キロメートルの行程を前提とした上で、距離的にも時間的にも僅かの離脱であることを主張するが、本件では、営業部長宅を訪れる目的そのものの存否が問題となっているのであるから、営業部長宅に至る順路を外れていないかどうかは、右目的の有無を決する上で看過することができない要素である。
 8 以上に見たところを総合すると、原告が、Cに製品を届けた後、布団乾燥器の開発に関して報告し打合せをするために営業部長宅を訪れる目的があったと認めることはできず、かえって、Cに製品を届けた後は妻と一緒にB商店に立ち寄るという業務とは関係のない私的な目的を持っていたもので、このことは、会社を出発する時点で妻に話しており、妻もこれを了承して同乗したものと解するのが相当である。また、成立に争いのない(証拠略)によれば、B商店はCに製品を届けてそのまま会社に帰る際の順路からは外れた場所に位置していることが認められるから、本件災害当時は、原告がCから会社に帰る途中であったということもできない。
 したがって、本件災害は、原告の業務とは関係がないものといわざるを得ない。