全 情 報

ID番号 05216
事件名 遺族補償給付等不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 室蘭労基署長(村井金物店)事件
争点
事案概要  腎不全により入院していたじん肺患者の死亡につき、右死亡が業務に起因するか否かが争われた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法7条1項
労働者災害補償保険法16条
労働基準法79条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 職業性の疾病
裁判年月日 1989年6月28日
裁判所名 札幌地
裁判形式 判決
事件番号 昭和59年 (行ウ) 1 
裁判結果 認容
出典 労働判例542号18頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-職業性の疾病〕
 原告主張のように、必ずしも致死的でなかった腎不全が、肺炎の罹患によって急激に悪化し尿毒症に至ったとすれば、特段の事情がない限り、その肺炎はじん肺症による肺の荒廃・抵抗力の低下によってもたらされたものと推認すべきであり、かつ、その肺炎が亡Aの死亡の引金になったと評価すべきといわなければならない。すなわち、証人B及び同Cの証言によれば、じん肺に罹患している者の気道や肺は外からの菌の侵入に対しこれを排除する抵抗力が弱く細菌に感染し易いこと、腎疾患において感染は腎の病変を憎(ママ)悪させて腎機能を低下させることは、いずれも医学的に良く知られた機序であると認められるのである。そして、その場合には、亡Aの死亡を惹き起こした複数の要因の中で、肺炎を生ぜしめたじん肺症が相対的に有力な要因というべきであるから、結局のところ、亡Aの死亡は、じん肺症と相当因果関係に立つものであり、労働者災害補償保険法七条が規定するところの業務に関する死亡と解すべきである。
 〔中略〕
 ところで、被告は、亡Aはじん肺症ではあったものの、その肺機能は比較的良く保たれていた旨主張し、亡Aが肺の荒廃により抵抗力を低下させ易感染状態であったことを否定するかのようである。そこで、この点についても判断するに、証人B及び同Cの各証言によれば、(一) 昭和四四年から同五五年九月の間、亡Aの肺機能自体は一秒率が若干低下した程度で著しい衰退がみられないものの、粉塵による肺の塊状巣が次第に繊維化・石灰化したほか、塊状巣も拡大し肺全体の三分の一を超える大きなものとなっていること、(二) 亡Aが感染した緑膿菌は、通常人であれば排除が容易であって、これにより肺炎に罹患することが稀であることがあきらかである。したがって、本件においては、亡Aの肺炎罹患はじん肺症によってもたらされたものでないとの特段の事情は見当たらないといわなければならず、前記説示のとおり、右肺炎罹患はじん肺症に起因するものというべきである。