全 情 報

ID番号 05228
事件名 労災保険金変更支給処分取消請求事件/傷病補償年金給付請求事件
いわゆる事件名 滝川労基署長事件
争点
事案概要  粉じん作業に従事してきてじん肺にかかり傷病補償年金(当初は長期傷病者補償給付)と厚生年金の障害年金の受給権を有する者が、傷病補償年金が調整・控除されて支給されることにつき、その地位を相続した者が右調整を憲法違反である等として減額調整されない傷病補償年金の支給を求めた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法18条1項
労働者災害補償保険法別表1第1号
体系項目 労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 傷病補償年金等
裁判年月日 1989年12月27日
裁判所名 札幌地
裁判形式 判決
事件番号 昭和56年 (行ウ) 7 
昭和57年 (行ウ) 4 
裁判結果 一部棄却・却下(確定)
出典 労働民例集40巻6号743頁/訟務月報37巻1号17頁/労働判例555号14頁
審級関係
評釈論文 荒木誠之・社会保障判例百選<第2版>〔別冊ジュリスト113〕136~137頁1991年10月
判決理由 〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-傷病補償年金等〕
 1 労災保険法及び同法施行規則によれば、労働者災害補償保険は、政府がこれを管掌する(同法二条)ものとされ、その保険事務は一般的には労働基準局長がこれを行い、そのうち保険給付等の事務については事業場所在地を管轄する労働基準監督署長が行う(同規則一条、二条)ものとされている。そして、同法による業務災害に関する保険給付のひとつである傷病補償年金(同法一二条の八第一項六号)は、業務上負傷し、又は疾病にかかった労働者について、当該負傷又は疾病に係る療養の開始後一年六か月を経過した日又は同日後において、当該負傷又は疾病が治っておらず、かつ、当該負傷又は疾病による廃疾の程度が労働省令で定める廃疾等級に該当することを要件として、右の状態が継続している間当該労働者に対して支給されるものであり(同条三項)、その支給の手続としては、所轄労働基準監督署長が当該労働者から届書の提出を受けて職権でその支給決定を行う(同規則一八条の二)ものとされている。その支給額は、右廃疾等級に応じて定まる(同法一八条一項)が、労働者の平均給与額が変動した場合における支給額の改定の定め(昭和四〇年法律第一三〇号による労災保険法改正附則四一条)のほか、労働者が故意に負傷、疾病の直接の原因となった事故を生じさせたときは、政府は保険給付を行わない(同法一二条の二第一項)ものとされ、労働者が故意の犯罪行為若しくは重大な過失により、又は正当な理由がなくて療養に関する指示に従わないことにより、負傷、疾病又はその原因となった事故を生じさせるなどしたときは、政府は保険給付の全部又は一部を行わないことができる(同条二項)といった給付制限も定められている。したがって、届書の提出を受けた労働基準監督署長としては、支給要件の存否、該当する廃疾等級、給付制限の存否等につき認定、判断をしたうえで、支給額等の具体的な内容を定めて右の支給決定をすることになるのである。さらに、労働基準監督署長の保険給付に関する決定に不服がある場合には、労働者災害補償保険審査官に対して審査請求を行い、その決定に不服がある場合には、労働保険審査会に対して再審査請求を行うことができる(同法三五条一項)とともに、労働基準監督署長の保険給付に関する決定の取消の訴えは、再審査請求に対する労働保険審査会の裁決を経た後でなければ提起することができない(同法三七条)こととされている。これら労災保険法及び同法施行規則の規定に照らすと、傷病補償年金については、同法所定の手続により労働基準監督署長が支給決定をすることによって給付の内容が具体的に定まり、受給権者である労働者は、この支給決定によってはじめて国に対する具体的な給付請求権を取得するのであって、右決定前においては、具体的な給付請求権を有しないものと解するのが相当である(最高裁昭和二九年一一月二六日第二小法廷判決・民集八巻一一号二〇七五頁参照)。
 そうすると、本件各規定は、労働者である受給権者がいったんは有していた保険給付請求権を、併給調整によって剥奪或いは制限する趣旨のものではなく、労働者は、当初から本件各規定により併給調整された後の内容の保険給付請求権を取得するにすぎないものと解することができる。
 したがって、本件各規定の定める併給調整により、傷病補償年金の支給金額が併給調整のない場合に比較して減額されることがあっても、そのことは何ら当該併給調整を受けた労働者の財産権を侵害するものではないと解するのが相当である。