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ID番号 05325
事件名 労災保険給付決定変更請求事件
いわゆる事件名 神戸東労基署長事件
争点
事案概要  工場内で就労中に頭上にグレンのモーター・ギヤボックスカバーが落下しそのためピット煙道灰出口に落下する事故にあった者が後遺症につき労基署長がした障害等級の認定を争った事例。
参照法条 労働者災害補償保険法15条
労働者災害補償保険法施行規則別表
労働基準法77条
体系項目 労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 障害補償(給付)
労災補償・労災保険 / 審査請求・行政訴訟 / 審査請求との関係、国家賠償法
裁判年月日 1954年3月22日
裁判所名 神戸地
裁判形式 判決
事件番号 昭和27年 (行) 12 
裁判結果 取消・棄却
出典 労働民例集5巻2号183頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-審査請求・行政訴訟-審査請求との関係、国家賠償法〕
 本件訴は労働者災害補償保険法による保険給付に関する決定の適否を争う訴であることは原告の主張自体により明らかで、同法第三十五条第一項によれば右決定に異議のある者は保険審査官の審査を請求し、その決定に不服のある者は労働者災害補償保険審査会に審査を請求し、その決定に不服のある者は裁判所に訴訟を提起することができると規定しているが、行政事件訴訟特例法より前に制定された右規定は、行政事件訴訟特例法第二条本文が行政庁の違法な処分の取消を求める訴を提起するには法令に異議審査訴願等の行政上の不服手段の定めてある場合はその行政上の手続を経なければならないとするいわゆる訴願前置主義を行政訴訟一般につき採用し、一面訴願等の行政上の不服手段を定めるとともに同時にその不服手段を経た後でなければ裁判所に出訴出来ないとするのと同様趣旨を定めたものであつて、右両法は一般原則に対する例外を定めるいわゆる一般法と特別法との関係に立つものではなく、従つて形式的にも右特例法第二条但書を労働者災害補償保険法の関係において排除すべき理由はないのみならず、右但書は所謂訴願裁決庁の怠慢によつて訴願人が不当に不利益を蒙るおそれがある等訴願前置主義のもたらす弊害を最小限度に止めようとする緩和規定である趣旨にかんがみ、本訴についても特に右緩和規定を不必要ならしめる理由はないのであるから、右但書の趣旨を排除する旨の規定のない以上、本訴にもその適用があるのが当然である。
 ところで、原告が決定期間内である原告主張の日その主張の決定を不服として保険審査官に審査の請求をしたが、保険審査官において三箇月以内にその決定をしなかつたことは当事者間に争がないから原告は保険審査官及び労働者災害補償審査会の審査を経ずして訴を提起しうるものというべきである。従つて、被告の抗弁は採用できない。
〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-障害補償(給付)〕
 (一)、まず原告の右(一)の障害が右等級第一級の五号の半身不随に該当するかどうかを考えるに、半身不随とは同側又は異側の上下肢の運動麻痺又は全廃をいゝ、右運動麻痺とは運動可能領域の半以上が麻痺する場合をいうものと解すべきところ、右障害は未だ右程度に達しないから、半身不随ということはできず、他に右等級表にこれに該当する記載がないので、労働者災害補償保険法施行規則第二十条第四項によりその障害の程度に応じ、右等級表掲記の身体障害に準じて等級を定むべきところ、右障害は同等級表の第五級の一上肢の用を全廃したもの、又は一下肢の用を全廃したものに準ずべきものと解すべきであるから、原告の右障害を第五級とすべきである。
 (二)原告の(二)の障害は神経系統の機能に著しい障害を残し、軽易な労務以外に服することができないものであるから右障害は前記等級表第八級の三号に該当する。
 (三)原告の(三)の障害は脊柱に著しい運動障害を残すものとして、等級表第六級の四号に該当するものである。 而して、原告の身体障害は第八級以上に該当する身体障害が二以上あるから、同規則第二十条第一、二、三項により前記身体障害の中最も重い第五級を二級繰り上げて第三級となる。
 そうすると、被告が原告の身体障害につき規則別表第八級の三号第十二級の六号に該当するものとし、第十三級以上に該当する身体障害の二以上あるものとして一級繰上げて第七級と認定し、その障害補償費を四十六万六千五百三十六円と決定したのは違法であるから、これを取消すべきものである。
 しかるところ、原告の行政処分を障害等級を労働者災害保償保険法第十二条別表の第一級とし、障害補償費を百十一万六千三百五十円と変更する旨の判決を求める請求にはその処分の取消を求める請求をも包含するものと解すべきであるから、本訴請求はこの限度においては正当として認容すべきであるが、その余は裁判所の判断作用の域を超えるものであつて許されないから排斥すべきである。