全 情 報

ID番号 05330
事件名 家屋明渡請求事件
いわゆる事件名 日本セメント事件
争点
事案概要  会社が退職従業員に対して、従業員は退職とともに社宅を明渡す旨の社宅規定に基づいて社宅明渡しを請求した事例。
参照法条 借家法1条の2
借家法3条
借家法6条
体系項目 寄宿舎・社宅(民事) / 社宅の使用関係
裁判年月日 1954年4月23日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 昭和27年 (ツ) 20 
裁判結果 破棄・差戻
出典 高裁民集7巻3号338頁
審級関係 控訴審/大阪地/   .  ./不明
評釈論文
判決理由 〔寄宿舎・社宅-社宅の使用関係〕
原審はかような社宅の賃貸借には借家法の適用がないことを前提として判断しているものと思われる。しかしながら、いわゆる社宅その他雇傭主である使用者が被用者である従業員の居住の用に供している貸与住宅(以下社宅という)である建物の利用についての法律関係が、使用貸借ではなくて、賃貸借であるときは、右社宅の賃貸借には当然借家法の適用があるものというべく、賃貸借の目的が社宅であるからといつて、これを一般の建物の賃貸借とは別異に解すべき根拠はないのである。けだし、社宅は従業員一般を対象とする福利厚生施設の一つであるとともに、これを開設し従業員の居住の用に供することによつて使用者の事業の実施にも利益と便宜をもたらすものであるが、従業員は従業員であることからその当然の権利として社宅の利用享有を主張し得るものではないし、また使用者は使用者の義務として従業員に社宅を開設提供しなければならないものでもないのである。従つて或る建物の社宅としての利用は雇傭関係なくしては考えられないが、雇傭関係と社宅利用関係とは相表裏し随伴するものではなくまた両関係が開始の時点において同時でなければならぬということは勿論できない。それと同様に、社宅を賃借利用している従業員について雇傭関係が終了すれば、社宅たる建物の利用関係も終了しなければならぬという要請はなく、いわんや、両関係は終了の時点において同時としなければならぬという要請はない。従業員の身分を失つた者の利用に委ねているときは、その限りにおいて建物は社宅としての性質効用を停止するか、建物の賃貸借であることには、社宅としての性質効用を具有発揮していようと、いまいと終始変動はないのである。社宅と呼ばれようと、それは賃借権の目的になつている建物である。建物の賃借人は賃借人として正当に保護されなければならない。社宅であるからとて、社宅たる建物の譲受人とか抵当権者がこの賃借権を無視することが許される道理はない。社宅であるからとて、使用者に、従業員が使用者の同意を得て建物に附加した造作についての買取請求を拒むことを認めて良い筋合いはない。社宅であるからとて、使用者の要求があるときは何時でも、従業員はその家族とともに直ちに社宅から退去しなければならないとされても当然だというわけにはいかない。借家法の各規定を検討しても、社宅の賃貸借であるが故に適用を排除するのが相当と解すべきものは存しない。しかも社宅を賃借中の従業員について身分関係の喪失もしくは変動が生じたときは、その事実そのものが使用者の行う社宅の賃貸借の解約申入に強度の正当性を附与する事由と認めるべきであろうから、借家法第一条の二の適用を認めたとて、賃貸人たる使用者の正当な権利を抑圧する不都合は全然ないのである。また解約申入の効力の発生従つて明渡義務の発生が、同法第三条によつて、解約申入の時から六ケ月後になることは、国家公務員のための国設宿舎に関する法律(昭和二四年法律第一一七号)第一九条の規定によつて、有料国設宿舎の明渡について六ケ月の猶予期限が定められていることから考えて、決して不当とはいえない。上述のとおり、社宅の賃貸借にも借家法の適用があるものと解すべきである。そうすると、「退社と同時に賃借社宅を明け渡す」旨の特約は借家法第一条の二及び第三条の規定に反し、賃借人に不利であることが明らかであるから、同法第六条によつてこれをなさないものとみなされるものである。