全 情 報

ID番号 05339
事件名 退職金等請求事件
いわゆる事件名 横浜陸上輸送部隊事件
争点
事案概要  駐留軍労務者が人員整理の必要に基づいて退職したことにつき軍令解雇としての取扱がなされるべきであるとして未払の退職金等を請求した事例。
参照法条 民法521条
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
裁判年月日 1954年11月19日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和29年 (ワ) 1328 
裁判結果 認容
出典 労働民例集5巻6号815頁/労経速報166号2頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 原告らがいずれも横浜市中区並びに保土ケ谷区等に基地をもつ本件部隊の駐留軍労務者として被告国に雇用せられていたものであるが、昭和二十八年十二月二十六日横浜労管所長が部隊内になした原告主張の掲示(但し文言中「人事」なる部分を除く)に基き同年十二月二十一日退職の手続をとり部隊総支配人に退職の申立をしたこと並びに原告等駐留軍労務者は日米行政協定に基いて被告国に雇用され、労務を直接に軍に提供するものであるが、雇用関係は純然たる私法関係に外ならないものであつて、退職には軍の都合による軍命解雇と労務者自身の都合による自己退職とがあり、何れの場合でも軍が解雇通知書を作成し労務者に対して解雇の意思表示をなすと共に労管所長に右書面を交付し、所長においてこれに基き解雇の事務処理をなして国との雇用契約を終了させることになつていることは当事者間に争いない。
 そこで先ず右の掲示によつてどのような行為がなされ、それがどのような効力を有するかの点を検討する。
 証人Aの証言によると、昭和二十八年十月下旬から十一月初旬にかけて全国的に駐留軍の予算削減に伴う駐留軍労務者の人員整理が避け難い状勢にあつたところ、同年十一月中旬駐留軍は人員整理によるよりは寧ろ労働時間を一週四十八時間から四十時間に短縮し、賃銀の切下によつてこれを解決する方針をとるに至つたので、四十時間制になると年末年始を控え賃金期末手当等にも関係するので、横浜労管当局では所管内の駐留軍部隊に対し四十時間制の実施は十二月十五日以降に延期されたいこと及び四十時間制に同意しないで退職するものについては軍命解雇の取扱をされたい旨の申入れをしたところ、第八〇〇一部隊では軍命解雇の取扱いをなしこの場合に相当する退職手当及び予告手当を支払うことの諒解を得た。労管がこのような方法で事務処理をなすのは次の理由による。即ち駐留軍労務者は被告国の雇用するものであつて給料退職手当等は国から支給されるものであるけれども、駐留軍からこれ等費用の補償を受けることが前提となつている関係上労管は労務者の雇入、解雇、給料額の決定など、すべて駐留軍の指示に従つてこれを処理しその指示又は諒解なくしてこれ等の事項を決定処理することはなかつたのである。そして軍命解雇と自己退職の場合には後記の通り労務者に支給さるべき金額に相違があつたので、その何れかの取扱をなすについては軍の指示又は諒解を要したのである。ところが本件駐留軍部隊では十二月一日になつて四十時間制を昭和二十九年一月一日より実施する旨の通知をなしたが、これによる賃銀切り下げを不満とする退職者を軍命解雇として取扱うかどうかについては労務士官の更迭等があつて軍の意図が明らかにならないうちに期日が切迫し、十二月二十七日は日曜日同月二十八日以降年末の休みになるので、横浜労管所長は十二月二十六日に本件部隊においても第八〇〇一部隊と同様の取扱をなすであろうことを予期し前記のような掲示をなしたものであること、ところがその翌年早々になつて退職希望者が意外に多数であつたため、部隊はその予算と作業の関係から軍命解雇の取扱をなすことの承諾をしなかつたことが認められる。
 この事実と右の掲示の文言(「人事」なる文言があつたかどうかによつて差異はない)を合せて考えると、右の掲示によつてなされた意思表示の趣旨は一週四十時間制の実施に不服であるため退職を希望するものはその旨を昭和二十八年十二月末日までに部隊総支配人ら関係機関に申出ればこれに対して被告国が軍命解雇の場合と同様に取扱い、これと同額の退職金ならびに予告手当の全額を支払う旨の意思を表示したものと認めるのが相当である。もつとも、労管所長としては軍の諒解が得られないときは軍命解雇として取扱う意思でないことは前記事実により推察できるけれども、このことは単なる動機又は内心的期待に止まり意思表示の効力を左右するものではない。そして右意思表示自体は何等の留保又は条件のない確定的なものであるから民法第五百二十一条にいう契約の申込にあたると解すべきである。